およそCDアルバムでも、そうは秀作ばかりというわけにもいかないだろう。
本作集では、その「差」があまりに大きいところが星★★★
坂東眞砂子【冷たい手】では、それこそ手に職を持つ娘が東京から故郷に還り、
母と時間を共にすることによる老いへの恐怖、、、、、
馳 星周【午前零時のサラ】では年齢差男女が犬を介して夜を行き交う物語。
この人のことは知らないが仁木英之という人の【ラッキーストリング】。
異国のアジアで、不動の歴史と時間に溶かされ午前零時どころか永遠に帰国できない時空に堕ちる青年の末路。
この3作を知るだけでも、
本書を手放さない価値は、ある。
本書を読み始めたときは、多くの読者はビックリするだろう「これって、古文?」 別に古文ではないのだが、多くの単語に大和言葉の読みをルビで示し、多くの人物の相関関係を断片的に示す描写には、その時点で「ごめんなさい」と本を閉じる方もいるのではないだろうか。
50頁過ぎにようやく纏まった人物紹介があるが、この時代背景に詳しくない方は、蘇我氏〜平城京遷都くらいまでの簡単な歴史の流れを抑えるか、持統天皇を中心とした家系図を手元において読むことをお勧めする。僕は後者にしたが、大王・蘇我・中臣の何重にも絡み合ったツナガリを如何に作者が巧妙に作品に活かしているかがよく分かった。
本書は、amazonの紹介文の通り、「夢を読み解く力を持った白妙が、時の太上天皇讃良、後の持統天皇の心の中に飲み込まれていく。強大な権力を手中に収め、愛するものを次々と葬って来た持統天皇の真実に迫る歴史長編」 だが、敢えて言えば、歴史小説としての仮説を巧みに活かした群像劇も、夢解き女を探偵に犯人どころか事件が何かも分からぬところから始まるミステリーとしてのスリリングさも、それは本書の本質ではないと思う。
持統天皇=賛良=太上天皇のオンナとしての業にこそ、本書が最も読者を揺さぶるものがあるのではないだろうか。
むろん、登場人物の過去やその後を学んで、すさまじい群像劇を深追いするのもいいし、一切の資料を持たずに白妙と同じミステリー探偵として最後までドキドキするのも悪くない。
読み応えのある一冊だが、一度で止めずに 繰り返し読むことで更に感じるところがあるように思う。
今昔物語から選んだという10の短編です。タイトルが「鬼に喰われた女」であるように、現代社会とは違う、ほの暗さを含んだ物語集です。鬼に、男に、社会に自分ではどうすることもできない大きな力の中に翻弄されているようでいて、時ににやりと笑ってみせるしたたかさを持っている、そんな女たちを、作者はさらりと読める程度の長さで淡々と描いています。ちょっと日常を離れた作品を読みたいときに是非どうぞ。
下巻に入ると、日本の物語の方では、加波山をはじめとして、日本史の教科書にも登場するようななじみのある地名が多く出てきます。これまで坂東さんの他の作品でも顔を出していた自由民権運動が、この作品でははっきりとメインテーマに据えられています。 それと同時に、私が読んだ坂東作品のなかでは女性解放色が最も濃く感じられます。最後の方で、むめが爆裂弾を片手に思いの丈を述べる横浜港の場面が何といってもクライマックスでしょう。 しかし同時に、一流作家として書けるのはここまでかなという気もします。それ以上のことを盛ると、一流作家の地位を滑り降りることになるでしょう。蓋し、小説、いえおよそ文学というものは、ジェンダーバイアスがあってこそ成り立っているといえるでしょうから。誰かがそれを打ち破る試みをしてもいいとは思いますが。
最後に貿易商光明が一時帰国して、岩神大洋の母を訪ねた時点でロンドンの物語と同期します。大洋が弟東吉に宛てた遺書の内容が最後に公開されます。そこにある、坂東さんの意図は何なのか? 進取の気質と頭脳を買われて海外派遣された若い男たちの心の内も、所詮はこの程度だったのか。この程度だから、大成できなかったのではないか。もっと柔軟でこだわりのない考え方はできなかったのか。例えばおまいさまがむめに諭したような、躑躅を成長させるために、椿を切るのではなく、その樹皮を剥ぐようなやり方は。 そんな風に考えてみました。ロンドンでの主人公を「光明」としたのは、坂東さんのせめてもの希望でもあったのかな、とも。
創刊15周年を迎える「小説すばる」に掲載された短編から選りすぐった短編集。 赤川次郎、浅田次郎、綾辻行人、伊集院静、北方謙三、椎名誠、篠田節子、志水辰夫、清水義範、高橋克彦、坂東眞砂子、東野圭吾、宮部みゆき、群ようこ、山本文緒、唯川恵、という売れっ子作家のオールスター。こんな豪華な短編集は珍しいので思わず買ってしまった。さすがにどれも面白く外れなし。その作家さんが書きそうな、「いかにも」と言った短編ばかり選んでいる所も楽しめる。あまり小説を読まない人も、これを読めば気になる作風の作家さんが見つかるに違いない。もちろん短編小説好きの方は必読書かと。
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