緋色の記憶 (文春文庫)
一人の老人が、少年時代の事件を回想するスタイルの小説。アメリカ東部の片田舎に赴任して来た美しい独身の女教師と一人の男性教師との不倫事件を軸に、彼らと主人公の少年との関わりが描かれている。終始重苦しい雰囲気で話が進み、暗い結末を予感させる。推理小説というよりも、少年時代の一つの行為の重さを一生背負い続けたの男の、苦悩に満ちた告白小説といった趣が強い。夏目漱石の「こころ」を連想させられる面もある。私は一般に暗いタッチの小説は好きな方だが、本書の場合途中から話の展開が大体予想でき、少々退屈させられる。英語は分詞構文が多用される凝った文体で、結構読みにくい。
スペシャル・ブレンド・ミステリー 謎001 (講談社文庫)
この手のアンソロジーはさまざまな企画があり、正直当たり外れも多い。今回は選者が当代きっての人気作家・東野圭吾ということで、「はずれ」がないことを祈って購入しました。
8編のミステリーが収められていますが、私個人としてのはずれは1つだけ。(どれとは申しませんが)。読んだことのない作家が半分ほど占めていたのですが、これを機に読んでみたいと思える内容でした。特に日下圭介氏。緻密に練られたストーリー展開はぐいぐいと引き込まれます。
冒頭に収められた松本清張氏の「新開地の事件」。すべてを読み終えたときにやはり抜きん出て印象に残る作品でした。単なるミステリーではない、時代背景の描写のうまさ、無駄のない文章。おもしろかったです。