君も出世ができる [DVD]
「嫌われ松子の一生」を観た時、これは日本に於いて極めて稀なミュージカルの傑作だなと興奮した。それくらいミュージカル映画は、日本の風土には似合わない不毛なジャンルと言えるのだが、それでも、過去にこのジャンルに果敢に挑戦した意欲作がなかった訳ではなくて、例えば加藤泰の「真田風雲録」や岡本喜八の「ああ爆弾」らが挙げられるのだが、それらがかなり斬新で作家性の強い作品であったのに比べ、今作はハリウッドテイストの軽やかで心弾むようなコメディ・タッチを狙って作られている。
高度経済成長期でのモーレツサラリーマンのヴァイタリティと悲哀に、帰国子女とのラブコメディをミュージカル仕立てにしてしまったのがいかにも東宝らしい(笑)。ハデさや賑やかさは同時代に作られていたクレージーキャッツ映画に一歩譲るが、黛敏郎&谷川俊一郎コンビによるマンボ、ルンバから民謡までも盛り込んだ楽曲たちは楽しいし、中でも、雪村いずみや益田喜頓ら総勢100人近くの出演者、ダンサーが歌い踊る「アメリカでは」は、多少ゴタゴタするものの壮観で、かなり頑張っている。フランキー堺や高島忠夫が働くオフィスとか、浜美枝がママのナイトクラブとか、近未来のSF映画を思わせる村木忍のセットデザインが印象的。
フランキーがやけ酒を飲んでいると、何故か植木等が登場、「これが男の生きる道」を聴かせると、それがいつの間にかサラリーマン哀歌のモブ・シーンに変わっていったり、ラストの大団円が、いかにもサラリーマン的慎ましやかで時代を感じてしまうが、日本映画で恐らく初めて本格的ミュージカルに挑戦した意欲作、映画ファンなら観てソンはない。
橋本國彦:交響曲第2番/三つの和讃/感傷的諧謔
かって中学校の音楽の時間にバッハやベートーベン、モーツアルトやシューベルトを聴いて、さて日本の作曲家は滝廉太郎で隅田川と聞いたときのミジメ感と言ったらありませんでした。なぜ隅田川や花が「世界的音楽」なのか理解できなかったのです。しかし試験では滝廉太郎と書かなければば点数が貰えませんでした。
高校でオーケストラに入りメンデルスゾーンやベートーベンを演奏しているうちに、日本の作曲家のことはすっかり忘れてしまっていました。それが今回、橋本國彦を聴いて本当に驚きました。これは疑いなく世界でも最高峰の音楽だと率直に思います。しかしいきさつから考えると日本の作曲家として橋本國彦が試験問題に出ることは当分無いでしょう。入試に無縁となった皆様、どうぞ橋本の交響曲第2番をゆったりとお楽しみ下さい。芸大交響楽団の演奏も録音したホールの響きも最高です。
黛敏郎:シンフォニック・ムード/バレエ音楽「舞楽」/曼荼羅交響曲/ルンバ・ラプソディ
黛敏郎の比較的初期の作品が収められた珍しいCDです。特にシンフォニック・ムードは演奏会で扱われたことはありますが、確かに録音がでたことはありませんでした。このシンフォニック・ムードは黛が21歳という年齢の作品に関わらず将来大シンフォニストとなるであろうことを予感をさせるものです。ともかく手馴れていて、巧いんです。どうすればオーケストラを鳴らすことができるかを物凄く良く心得ている。1950年の日本の状況を考えるとこれはとんでもないことです。
そして、このCDの圧巻は片山杜秀氏による解説です。堂々13頁(英文翻訳も含めると24頁)にわたる解説には、片山氏による黛論が展開されており、黛がその特性をどのように身に付けていったかを自在に語っています。片山氏にとっては、この時代の記述は自家薬籠中のものとなっておりその博覧強記と自然な語り口は、読者を瞬時にその時代に送り込むタイムマシーンとなっており、ただただ脱帽するしかありません。
このような超一流の評論家のライナーノートを前にしたら、自己の言語を持たない他人の借り物を単に頼りにするだけの世の三流評論家は筆を折り、口を閉ざすべきでしょう。
このCDには他に舞楽と曼荼羅交響曲そして最初期の管弦楽作品であるルンバ・ラプソディーが入っています。演奏はとても丁寧なもので、舞楽第二部の打楽器による独特の拍はその緊迫感において新たなものとなっています。鮮明な音質で輪郭がはっきりした素晴らしい演奏と録音です。ともかく、CDがその全体として質が高いのです。表紙の古賀春江画伯の「海」もいいし、CDジャッケトの内側の面のドイツ語で書かれた日本地図のデザインもいいんです。
丁寧に仕事をした人々の労作です。橋本国彦の作品集以来のきちっとした仕事です。正当な評価が下されるべき近年まれに見る見事なCD(作品)といってよいでしょう。
憎いあンちくしょう [DVD]
「機内食は肉か魚か/迷う事なく肉を選んだ」とは、クレイジーケンバンドの名曲「男の滑走路」の一節だが、オレにとってこの『憎いあンちくしょう』という映画は、まさにその“機内食”の“肉”に例えることのできる、これからもずっと、心の中で大切にして行こうと思っている作品のひとつである。高校生ぐらいの頃、テレビで見た往年の日活映画の魅力のとりこになり、それ以来傑作も凡作もいろいろ観たけれど、この『憎い…』はいわゆる“日活映画”、いや、“旧い日本映画”の定型にハマりきらない、いつみても新しい感動と勇気を与えてくれる傑作だ。ひょっとすると石原裕次郎は、この作品を“石原プロ作品”として世に送り出したかったのではないだろうか? と思うぐらい、ルーティンワークの対極に位置する、まったくもって斬新な作品である。
冒頭、軽いタッチではあるが、裕次郎演じる超売れっ子タレントの、繰り返す日々や、浅丘ルリ子―演技のすばらしさもだが、チャーミング、かつ美しい!―演じる恋人兼マネージャーに対して抱く倦怠感・・・・・というところから始まり、やがて中盤、裕次郎がジープで東京を発つあたりから“愛っていったい何だ?”“純愛ってそんなにエラいのか?”みたいなあたりを探求する展開となって行く。その旅の途中に何があるのか? そしてゴールには、何が待っているのか? それはぜひ、あなた自身の目で確かめていただきたい。奔放なように見えて、実はけっこう緻密に計算されたカメラワーク、そして劇中、ギター一本で歌われる、映画と同名の主題歌(作詞は当時助監督だった、後の藤田敏八)も印象的。
1962(昭和37)年7月公開。
なお、DVDの映像特典は予告編のみ(いつも思うけど、日活の予告編って、他社に比べてどうもいまいち・・・)だが、撮影スナップ、フォトギャラリー、ロビーカード、作品データなども収録されている。
スポーツ・マーチ・ベスト
いろんな曲が収録されているがテレビ局が番組テーマとして使っていた曲が数多く入っている。しかしオリジナルではないので多少イメージが違っている。「フジテレビ・スポーツテーマ(新田一郎)」「朝日に栄光あれ(神津善行)」「スポーツ行進曲(NTVスポーツテーマ/黛敏郎)」など編曲や演奏の違いでオリジナルとはかけ離れてしまっている曲があるのは残念だ。
しかし耳に馴染んだメロディーは昭和の時代を思い出させてくれる。
過去に発売された音源をジャンル別に分けてのシリーズ化ではあるのだろうけど、新録音の音源ももっと収録して欲しかった。
解説書は1曲ごとに説明があってありがたい。マーチの盤としては面白い存在のCDだと思う。