ミック・カーンのソロ作品については概ね聴いてきたつもりですが、アンサンブルの中にジャパンやレイン・トゥリー・クロウのようにベースに拮抗する強烈な個性がないだけに、カーンのベース・リフばかりが目立つ結果になってしまい、作品としての完成度はどうか?というものもあるようです。そんな中で本作は、即興演奏中心でポップさのかけらもないものの、当方は比較的聴き込んできた愛着のある作品です。少し毛色の変わったジャズロックやプログレッシブロックとして楽しむことも可能です。
共演しているテリー・ボジオも、フランク・ザッパやUK時代のような高速爆裂ドラミングはなりをひそめ、パーカッションや小型のタムタムを多用した、現在のソロパフォーマンスに通じる繊細さと激しさをあわせもった演奏に移行しており、じっくり聴くと結構複雑なことをしているのがわかります。ギターのデイヴィッド・トーン(トニー・レヴィン、ビル・ブルフォードと共演歴あり)は、例によって、とらえどころのない無国籍空間系の音を放出しています(笑)。類似作品をあげるのが難しいのですが、キング・クリムゾンの即興演奏をもう少しエスニック風にアレンジしたような感じ、と言えばいいでしょうか。
なお、少し手に入りにくいかもしれませんが、本作と同じ独CMPから出ていたAndy Rinehart「Jason's Chord」(1993)は、若々しい歌声やピアノ、アコーディオン(!)のアンサンブルにカーンのベースが有機的に絡みながら躍動する一風変わったロック作品となっており、イキのいいカーンのベースを堪能したい人にはお薦めします。
最近では元メガデスのマーティ・フリードマンのアルバムや日本のキリトのバックでベース弾いたりしてましたが、久々にソロ・アルバムが到着。自身のレーベル(その名も“MICK KARN”)を立ち上げて、前作『MORE BETTER DIFFERENT』からは約3年振りのアルバムで、前作と同様にほぼ一人での録音です。ミックのソロ・アルバムの中でも特にメロディックで内向的な作品ですね。ギリシャ出身という事もあるのでしょうが、ミックのコード感ってどこかエキゾチックな響き(あのベース・ラインは特に)があって、そこに一度ハマると中々抜けられなくなってしまうんですよね。そんなミックのファンの人結構いるんじゃないかな?ミックらしいプリミティヴな作品に仕上がってますね。先行リリースされたシングルにはアルバム未収の曲が収録されてますよ。
●●●訃報●●●
残念ながら・・・2011年1月4日、ロンドンの自宅で亡くなったことがオフィシャル・サイトで発表されました。家族や友人たちに囲まれ息を引き取ったそうです。 享年52歳。若すぎます。
ありがとう。ミック。本当にありがとう。
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元ジャパン、ベーシスト、ミック・カーン4年ぶりのアルバム。 内容的にはフレットレス・ベースに管楽器が絡み、そこにボーカルも・・・と言った雰囲気です。特にゲスト・ミュージシャンの参加も無く、基本的には彼一人の多重録音です。(クレジットにはドラムでPete Lockett??誰??) 元同僚、スティーヴ・ジャンセンやリチャード・バルビエリの参加も無く、少し寂しい気もします。 自主レーベル製作でアルバム自体、昨年の後半には完成していたにも関わらず、配給してくれるレコード会社が見つからなかったのか、当初はダウン・ロード販売のみで、今年に入ってからCDが発売となりました。残念ながら今のシーンにおいてミックの商品価値は低く、ビジネス面ではかなり苦戦しているのも事実です。
追い討ちをかけるように、今年6月オフィシャル・サイトにてショッキングなニュースが発表されました。ミックが癌に侵されていて、進行した状態の肺ガン(ステージ3)、一説には脳にまで転移しているとも。 近年は生まれ故郷のキプロスに戻っていたようですが、癌が発見された後、キプロスでは適切な処置を受けられる施設が無く、それと同時に医療機関にかかるお金も無かったようです。 オフィシャル・サイトにて治療の為の募金が呼びかけられたり(現在も受付けています)、旧友ミッジ・ユーロが治療費捻出の為のチャリティー・ライブが計画されています。 もちろん!ジャパン時代の親友達も、いち早くアクションを起こしてくれました。 スティーヴは自身のサイトで販売している写真作品の売上をミックの治療に寄付。デヴィッドも自身のサイトにて、ミックに捧げる曲を製作しサイトで公開。リチャードは現在所属している”Porcupine Tree ”のライブ盤の売上をミックに寄付。 今現在は募金や旧友たちの援助により、イギリスの施設に転院し病状は落ち着いてる模様(実際のところ、これ以上細かい情報は発表されていませんが・・・) 9月後半からは、ピーター・マーフィーと共に”ダリズ・カー”のセカンド・アルバムの製作が始まる事も双方のサイトで告知されています。楽しみな反面ミックの体調も心配です。
ミックの事、昔ジャパンが好きだった皆さん。ミック自身、それと彼の家族の為にも、このアルバムを聞いてあげてください。
収録曲〜
1. Ashamed To Be Part Of Them 2. Presence 3. T.V.Woo 4. Confabulation 5. Yes I've Been To France 6. Tender Poison 7. Vote For Lies 8. J.B. Meknee 9. Antisocial Again
どんなときもどんなときもどんなときも。このころのイトイさんはすっげー歌詞を書いていたものだ。平易な言葉で時代の、というか当時のこまっしゃくれた若造の気分をかすめ取るような。(そりゃ、コピーライターだもんね)吉本隆明だ、栗本慎一郎だ、戸川純だ、ヨゼフボイスだドイチェアメリカニシェフロウントシャフトだ、アインシュトルッツェンデノイヴァウテンだ、と言っていても所詮は孤独で小心な青年たち。みんなこの曲で涙したものです。たたみいわし・ひざまくら~散歩テクテクのおいしい生活も素晴らしい。いまの無印そのままが20年前から提示されていたのだ。もちろん、こう感じるのはアッコメロおよび歌唱のおかげ。YMOに加えジャパンを筆頭に当時のロンドンニューロマンティックスシーンを巻き込みつつ、そして80年代宝島カルチャーの荒波に染められつつも、「愛がなくちゃね」は独自の暖かな世界があった。そしてそこが一番居心地がいいってぇのが宝島少年の本音だったかも知れないナー。ムツカシー顔をしたジャパンのミックカーンなどが「ヤッパリアイガナクチャネ~」とコーラスするのも愉快。 アナログ時代、レコードの高額化を懸念したアッコさんがジャケット/本体別売りにし、本体1,800円というのもうれしかった。もちろん、ジャケットは買わなかった(笑)
自分は、実際にミック・カーンのプレイを見て聴いた世代です。 彼の衝撃的なパフォーマンスと芸術品のようなルックスに、 その人間性も強靭でエキセントリックなんだろうと、 いままで勝手に妄想を膨らませていました。 さて本書を読みおえて(残念なことに亡くなってからの出版だったそうですが)、 実際のミックは、傷つきやすく感情的で、コンプレックスも多く、 「永遠に思春期の女の子」のようです。(オネエという意味ではありません) 雲の上のアーティストだと思っていましたが、悩める「普通の人」と分かって、 憧れから愛しさに変ってしまいました。
これだけの分量を書いても書き足らなかったようで、 言いたいことがありすぎてしんどい人生だったろうと容易に察しがつきました。 しかし、これだけ自身の弱さをさらけ出せるということは、 晩年に至っては、本当の強さが備わったのではないかと逆に思うのです。 音楽仲間の暴露のような内容も多いですが、そういうことを臆面もなく書いてしまう人間臭さも 亡くなってしまった今では、「そうかそうか」と受け止めてしまえます。
本の装丁は何故か正方形でペラペラの表紙、これはすこしでもアーティステックにしたかったのでしょうか? でもやっぱりもう少し読みやすい普通の装丁にしてほしかったです。 ミックの自伝ですから、冒頭は寄稿文よりも 彼の仕事の足跡を、資料として時系列に入れて欲しかったです。 なぜならば本文が音楽活動の時代が前後して書かれているため、頭の中でイメージしにくい。 ファンとしては写真ももう少し欲しかったですね。 (ご本人が望まなかったのなら仕方ありませんが。) 英文の翻訳なので多少まどろっこしい文体ですが、それでもよく翻訳してくださったと感心します。
最後に、愛しきベーシスト、ミック・カーン氏に いままで与えていただいた素晴らしい音楽に感謝し、 ご冥福を心から祈ります。
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