芥川賞を取らなかった名作たち (朝日新書)
芥川賞・直木賞に関しては、とくに近年は出版社との関係もあり
選考も不透明だ。
本書はそういったことを興味本位、ジャーナリスティックに取り上げるのではなく
あくまで「落選した事実」を前面に出し、
なぜ落選したかを解説。しかし声高になるわけではない。
受賞したかどうかに関係なく「良いものは良い」というスタンスで、
受賞しなかった作品の良さを取り上げていく。
太宰治から干刈あがたまで11人、11作品。
佐伯氏自身も候補になりながら、受賞はしていない。
しかし地味だが素晴らし作品を送り出している。
あえて最近の作品(とくに佐伯氏が候補になった前後)を取り上げなかったのは、
表現者としての佐伯氏のプライドでもあり、ある種の配慮だろう。
本文はわかりやすい、語りかけるような「ですます調」。
難解な表現もなく著者の誠実さも感じられる。
佐伯氏ならではの一冊かもしれない。
巻末の「芥川賞候補一覧」。とくにコメントもない一覧表だが、
受賞した作家もそれまで何回も候補作になっていたり……ということがわかり
文壇史の一部を見る思いだった。
できれば誰か、「直木賞編」を出していただきたい。
樹下の家族 (朝日文庫)
「樹下の家族」「ウホッホ探検隊」などなど、「家族」のかたちを提起してきた干刈さんの作品は、どれもとっても面白い。
離婚がそれほど特別なこととして受け止められなくなったいまも、彼女の作品は「離婚前」または「離婚後の生活」を書いた中では秀逸だ。
「樹下の家族」には、それまでお互いに「閉ざしていた」夫婦関係の、妻から夫への呼びかけが語られる。「私はあなたが好き、あなたを愛している、だからどうぞこっちへ来て」というくだりは、いまなお、多くの妻からの呼びかけであるように思える。
私自身は「裸」がいちばん好き。離婚を体験し、現在はいわゆる「不倫関係」にあって、子どもがいて…こういう人って、たいてい「悪役」になっちゃうでしょう。あがたさんの作品には、そういう立場の女の人がけっこう出てきます。
干刈あがたさんが、「どうせ終わってしまうなら、一瞬でもきれいに輝いて消えてしまった方がいい」と言っていた…という本を読んだことがある。このひとは「永遠」とか「いつまでも幸せに暮らしました」というものには、たぶん、興味がないのだろう。このひとの作品は「一瞬の輝き」を書き留めていったモノの集合体。それでいいのだ。