近年では、作曲家そして演奏家である音楽家はクラシック界には不在であったと思う。ところが!、このディアンス氏である。 80年代後半に福田進一が広めた『タンゴ・アン・スカイ』(後続のギタリスト達のレパートリー)の作者がこのディアンス氏。 4曲の自作自演、クラシックでは#2(ヴィラ=ロボス)#11(サティ)、JAZZでは#6(セロニアス・モンク)、ボッサでは おなじみ#3(ACジョビン)、さらに#1(ラインハルト)、タンゴの#9などクラシックを軸としながらもJAZZや他のジャンルも彼のギターでは繰り広げられる。アドリブも得意とするローラン・ディアンス、ついに日本でのリリース。ギター音楽を愛するすべての方が聞いて納得する内容だと思われる。
ほぼ全曲に渡って言えることが、中級~上級曲を演奏しているにも関わらずそのテンポがただならぬスピードで突き進むので、自ずと奏者の技量がいかに凄まじいというのが伝わってくる。 リブラソナチネの第三楽章などは幾ら、幾分弾きやすい作曲が売りのディアンズとは言え、彼の奏でる第三楽章はただならぬ曲にさえなってしまっているのだ。同じ事がコユンババ第三楽章にも言えると思う。 クラシックギタリストで最も愛好されているラウロのナタリアも勿論ここに選曲されているのだが、やはりこの曲もスピード感が凄い。しかしラウロの特徴である中南米特有のセンチメンタルなメロディーを殺した演奏になっていないのもまた中々だと思う。 サンバースト等で知られるヨークであるが、また知られていないエマージェンスを収録したのは興味深かった。何か最近彼はヨークの広告塔になっていないか?とも思うほど彼の曲と切っても切れない関係になりつつあるようだが、サンバーストの間奏に見られるような高速な低音アルペジオというヨークならではのアプローチ方法を全編に渡って駆使しているエマージェンスはやや単調な中にも今までのクラシックギターには無い新しいアプローチを感じた。この辺りは勿論演奏者も誉めるべきだろうが、流石はヨークだと言うべきだろう。 その他彼にしては珍しく中南米曲バーテンジャズ組曲やヨーク提供の数少ないデュオ曲である京都をテーマにした三千院等、多彩な顔ぶれである。また後半のラウロは前述した通りラウロのこれでもかという位の感傷的な曲がづらりと並びノックアウトされるだろう。規模の小さい曲ながらこのような美しいメロディーを書く才能を持つラウロも誉めるべき作曲家。
ディアンスの編曲が好きだ。 ギタ-で考えうるあらゆるアイデア、独創性が詰まっている。 それでいて原曲も崩すことなく、素材の持ち味を活かして更においしい料理にしてしまう、まさに一流シェフのようだ。今回のアルバムではジャズやシャンソンの素材を使って極上のディナ-を味わせてもらった。 お気に入りはオ-ヴァ-・ザ・レインボウ。これはどうだい?、こうも弾けるよ、これもできるな、とディアンスに話しかけられているようだ。ギタ-の魅力を最大限引き出す。聴いて楽しい、弾けたらもっと楽しい、そんなアルバムだろう 。
曲は地味なセレクションですが、ディアンスらしさは相変わらず感じられます。ギターという楽器を知り尽くし、汲み尽す。テクニック云々より歌わせる感じがよく伝わる一枚です。
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