文學ト云フ事スペシャル 2_6
田山花袋 RT @JomoKaruta 誇る文豪 #jomokaruta |
蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫) |
精神分析において、分析家と患者は治療のため、一時的な転移関係をむすぶ。患者が分析家
に恋愛感情に似たものを抱くのだが、ここで分析家は「逆転移」という現象に耐えなければなら ない。分析家までもが患者に思慕を抱けば、後はなるようになるしかないのだから。それが分 析家の倫理といえる。 時雄は分析家でないし、芳子は患者ではない。しかし、私が思うにこの師匠と弟子という関係 は、限りなく分析家−患者の関係に近い。師匠に転移した弟子は、師匠がやろうとさえ思えば、 どうとでもなるのである。そして時雄は、この「師匠の倫理」というものを守れず、ずぶずぶと はまっていってしまうのである。 物語の大半を占めるのは、弟子である芳子に愛情を抱きながら、何もできずに彼女を他の男に 持って行かれるのを指をくわえて眺めるほかない時雄の悶々とした感情である。女性読者のみ なさん、なんてみみっちい男って思われるかもしれませんが、男も内心はこんなもんなんですよ。 主人公時雄は三重の意味で敗北者だ。一つは師弟の関係を超えた感情を抑えきれなかったこと。 二つは、師弟という関係の禁忌に縛られたまま、結局芳子に想いを打ち明けられず、その一線を 越えられなかったこと。そして最後の一つは、かといってその別れの悲しみをグッと耐えることも できず、物語の最終盤において彼女が去っていったあとの部屋で、ある倒錯を犯してしまったこと。 私が思う日本近代文学史上に残る「かっこわるい男」の一人に、彼は堂々のランクインだ。 しかし、それだからこそ、読む者はこの男に愛着が湧くのではないだろうか。 |
田舎教師 (新潮文庫) |
現代でも理想を目指しながら、挫折を味わう人たちは数多いはずなのに、明治時代に書かれたこの物語が古典として生き延びるのはなぜだろう。 末尾に近い主人公の葬式のシーンは「もうやめてくれ」と叫びたくなるほどのリアルさで、読むものの胸を締め付ける。これ以上ない、「挫折」をテーマに生きることの意味と真剣に向き合わされる名著。 |
蒲団・一兵卒 (岩波文庫) |
『蒲団』の名前は、40年前の高校生のときから知っていた。 だが、その内容は、「男と女が蒲団の中でまぐあいをするエロ小説だ」と勝手に誤解していた。 本作品は、主人公の妻子ある中年作家の、若くて美人の作家志望の学生に対する切ない恋と恋敵の若い学生への嫉妬を見事に描いた、日本文学の最高傑作である。 本作品は、私の心情にぴったりと来る。私の感じ方の波長に寸分の狂いいなくあっている。こういう作品には、人生初めて出会った。 だが、波長のあわぬ人には理解できない小説である。 本作品は、文学史上は重要だが、他にもっとよい作品があるとぬかすたわけが多いのには怒りを覚える。 このような自己の欲望を抑えた恋愛は、今日はもう存在しないのかも知れない。 |
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