身体に対する認識が変わった1冊。 「丸める/反る」「伸ばす/縮める」「捻り」という身体の基本動作は目からウロコ。 著者の伊藤昇氏の身体感覚が優れていたことは書いてある文書からわかる。言葉を読むと身体がどのような動きをするかわかるからだ。 スポーツ選手、ダンサー、音楽家、オペラ歌手、喜劇人と様々な人の動きを紹介しながら身体の可能性について語っている。 特に坂東玉三郎の身体の動きを絶賛している。日本人として世界に誇れる身体感覚である胴体力があることに感動。 西洋から入ってくるボディワークだけではなく、日本古来から伝わるものを見直そうと強く思った。 誰もがスーパーボディを手に入れることができると実感した。
この本は、胴体力を上手く使う世界の超一流アスリートを解析した書籍で、伊藤昇氏の慧眼に感服しました。自分は少林寺拳法を稽古しており、彼も少林寺拳法がベースのひとつとなっているので親近感が湧きますが、それ以上に、アスリート、舞踏家などの体の使い方を胴体力をいかに上手く活用しているのかを丁寧に説明されています。この本では、直接胴体力を高めるトレーニング方法は記載されていませんが、胴体力を上手く使うとどのような結果になるのかが明示されているので、男性で「胴体力」興味のある方は、伊藤昇氏著「気分爽快身体革命」や月刊秘伝特別編集「胴体力入門」が、女性向けでは、棗田三奈子著「棗田式胴体トレーニング」がお勧めです。
著者はすでに歌舞伎本を二作出しているが、業界人ではないようだ。 「はじめに」では玉三郎を絶賛しつつも、本文ではその想いを突き放すように、 膨大な資料を淡々と並列的に駆使して、歌舞伎界への視線を膨らませつつ、 玉三郎を歴史上の人のように語っていく。 この作業は、業界人ではないからこそ可能だったのかもしれない。
一気に読んだあと、ふと考える。 この本のカバーにあるような歌右衛門との「闘い」の物語に、なぜならなかったのか。 著者には、歌右衛門のような権威的存在に対して、嫌悪すると同時に、 尊敬の念も抱く、矛盾ともいえる表裏一体の感情があるからなのか。
いや、それ以上に、玉三郎は「闘い」を超越した存在だからなのだ。 60歳を迎える彼の舞台から、現世を超えた清浄な美を感じるのは私だけだろうか。 彼は芸能の神の申し子なのではないか。 幾多の試練を経て、歌舞伎以外の舞台や、バレエ、クラシック音楽とのコラボ、 映画、演出、昆劇、朗読や舞踊公演へと旅を続ける、しなやかな玉三郎の物語。 著者の意図とは異なるかもしれないが、 私には、説話などにある神の申し子の流浪の物語と重なって、 胸をときめかして読んでしまった。
さらに思いを巡らせると、玉三郎が挑戦してきたように、 歌舞伎は伝統を守りつつも、大きな時代の変化の中で、 絶えず何かに向かって闘いながら、玉石混交いろんな芸能を包み込んで、 今日の揺るぎない、大きな存在に発展してきたのだと思い当たる。 そう、歌舞伎が今後も活気ある舞台芸能として生き残るための 多くの示唆が、玉三郎の旅の物語から読み取れる。
これからも、玉三郎をしっかり観ていきたい。そんな決意をさせる本でした。
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