股旅映画の名作と誉れ高い一編です。しかしわたしは、
それほど好きにはなれませんでした。東映時代劇の終
焉時に製作されたためか、極端にデフォルメされたセット
や思い切って省略化された構成などで、時代劇のコクの
ようなものがあまり感じられなかったからです。何より、
全体が、張り詰め過ぎているように思いました。
反面、作中の音楽は今でも印象が鮮やかです。朝吉
(渥美清)が時次郎(中村錦之助)と絡みながら仁義を
切るオープニングに流れるタイトル曲の、軽快なリズム
には自由への憧れ、哀調のメロディーには挫折と孤独
の辛さとが込められているかのようでした。この曲は、後
に暗転する運命を知らぬまま、時次郎がおきぬ(池内淳
子) の子供を肩車して土手を歩く場面やラストでその子
供と共に淋しく立ち去っていくシーンにも使われていまし
た。監督自身も「斎藤一郎さんの音楽がいいでしょう。」
と言っていました。(『加藤泰研究』という雑誌だったかな
?)
作曲者の斎藤一郎は、成瀬巳喜男との名コンビぶりが
知られる他は、あまり情報がありません。そこで、経歴
を調べてみました。
[生] 千葉1909.8.23〜1979.11.16 国立音楽学校
の窪兼雅についてバイオリンを修めた後、松竹管弦楽団
でバイオリンを担当。池内友次郎、池譲に師事して作曲
を学び、新興キネマ音楽部に転じて映画音楽の道に入り、
のち大映に移る。昭和27年『おかあさん』『稲妻』で毎日
映画コンクール音楽賞、昭和29年『金色夜叉』で東南ア
ジア映画祭音楽賞を受賞している。(『日本の映画人』
2007に『現代人名情報辞典』1987の記述を加筆しまし
た。)
やはり、根っからの映画の人だったのですね。だから、
本作の作者の意図を理解し、それを音楽として表現し得
たのでしょう。熟達のプロの技に拍手!!
わが家では、ちょっと落ち込んだ時には「元気を出すん だ」、友人が少ないとこぼすと「淋しく生まれついちまっ て」と、本作冒頭の科白が飛び交います。 脚本は成沢昌成とありますが、当時助監督だった鈴木 則文、中島貞夫、牧口雄二が徹底的に書き直してしまっ たといいます。鈴木則文は以前、少年時代に海岸で遊ん でいたときに不発弾が爆発し友人を一瞬にして失ったこ とを、また中島貞夫は本土決戦に備え竹槍訓練に励んだ ことを記していました。本作でみられる、生きるということ への慈しみにはそういう彼らの体験が、少なからず映され ていると思います。 これは牧口雄二が語っていたことですが、本作のシナ リオが配布されたとき、スタッフ一同が「これはいい映画 ができる」と直感したといいます。ラストで主人公が、あた かもこの世に別れを告げるかのように菅笠を放り投げます が、これは主演の中村(萬屋)錦之助自身のアイデアだっ たとも聞きました。本作が多くの人の心を動かす名作とな ったのは、映画づくりにかける撮影所の人々の様々な思 いが、股旅映画という伝統的な漂泊のアウトローの物語 に、グッとまとまった結果なのだと思います。 わたしの不動のベストワン映画です。
炊きたては文句なしで、冷えても美味しいお米。基本的満足。
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