狂四郎ガールズの質も今ひとつで、ストーリーも凡庸な一作。「円月斬り」で狂四郎に斬られたむささびの伴造(伊達三郎)の妹・おりん(嵯峨三智子)が、兄の仇を討つため狂四郎に付き纏うが、その伊達三郎が岩代藩士役として登場し、幾つものシーンで嵯峨三智子と並んで写っていたのには笑った。
伊藤大輔は「移動大好き」とあだ名されたほど移動撮影を駆使した。この傑作でも冒頭から修羅場となった河川敷付近をカメラが移動する。そして過去の悲痛な物語が語り始められる。献身的に仕えてきた若主人(片山明彦)に見捨てられたと知った下郎(田崎潤)は呆然自失。つづいて立ちあがり,おしつけられた剣を夜叉の如くふり回す一瞬に私の身はすくむ。狂気へ紙一重の境を彼はこえてしまったのだ。知らずに仇を討ちとってしまった下郎が,今度は仇と目された。若主人は,追手の武士の前に「仇を討ったのは俺ではない,俺はまきぞえをくう理由はない」と下郎を差し出して逃げてしまう。下郎が討たれた後,若主人は河原に戻って来た。「下郎の仇」と剣を抜く彼を,武士たちは卑劣な男よ,刀の汚れだと嘲笑して去る。「武士道無惨」の悲劇の構造がみえる。妾・嵯峨三智子の妖艶さも素晴らしい。伊藤大輔ってなんてすごいんだと感嘆。
「忠臣蔵」といえば、浅野内匠頭と吉良上野介、大石内蔵助らが出る実際の事件と、これを『太平記』の世界に置き換え、高師直と塩谷判官、大星由良之助とした浄瑠璃ものとがある。これは、浄瑠璃のほうに基づきつつ、名前は浅野、吉良に戻した異色作で、頭がごっちゃになってしまうという初心者にはいい。しかも大石は二代目猿之助(初代猿翁)で、息子の主税が当時の団子つまりのちの三代猿之助、二代猿翁が演じていてこれが実にかわいい。歌舞伎ファン必見の映画の一つである。
若き津川雅彦の美男子ぶり、青春の衝動も凄いんですが、故・瑳峨三智子の妖艶なたたずまい、悪女ぶりは特筆もの。彼女が登場するだけで不思議な美しさとアンニュイが漂い、空気感が変わります。憎しみと打算、官能が交錯するこの二人の関係、自分の野心を叶えることで頭が一杯の男、そんな男との出逢いによって運命が狂い始め、突然に死を迎える少女。単なるメロドラマにはならないオペラのような展開は、今観てもレベルは高いと感じます。
|