シューマン:ヴァイオリン・ソナタ
シューマンのヴァイオリン・ソナタが演奏される機会は多くはない。
その一因に、彼のヴァイオリン曲がA線やD線の中間音域を使うことが多く、「演奏効果を上げにくい」という点があるようだ。シューマンのヴァイオリン曲では、「高音域の艶やかな美音」や「華麗なる技巧」ではなく、演奏者の真の音楽性が問われている言ってよい。
このディスクに収められているのは、2002年の漆原朝子のシューマン、ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会のライヴ録音である。漆原はもともとD腺やG線がヴィオラではないかと思わせるほどたっぷり鳴るヴァイオリニストだが、ここに聴かれる演奏の充実ぶりは尋常なものではない。ヴァイオリン全体が鳴り切った力強い重音、繊細きわまりない弱音、そしてライヴならではの高揚感。演奏会に足を運んだ聴衆が妬ましく感じられるほどだ。
とりわけソナタ第2番は圧倒的な名演で、私はこの演奏ではじめてこの曲の真価に目を開かされた。ピアノのイメージが強いシューマンだが、ここで彼は、パガニーニとはまた違った意味で、ヴァイオリンという楽器の可能性を極限まで追求しようとしている。
シューマンを愛する人はもちろん、ヴァイオリンを愛する皆さんにぜひ聴いていただきたい名演である。