分量から言っても内容から言っても「澪標」が白眉といえる。時に唖然とするほど率直な自らの性体験の記録であるが、愚直なまでに己の性欲を見つめ、考え込むその真剣さが時には滑稽、しかし常に新鮮である。特に少年時代の記述は明治末ー大正期日本社会における性のあり方を考える際には一級の歴史資料と言ってもよいのではないだろうか。女性にとって決して楽しい読み物ではないと思うが、それだけに読む価値があるかもしれない。
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