新装版 天璋院篤姫(上) (講談社文庫)
大河ドラマ『篤姫』の時代考証や人物設定をめぐりいろいろな声のある今日此頃、原作本を読んでみた。なるほど、確かにドラマと原作とでは相当違う。例えば、(1)篤姫の人物造形(原作本は、お転婆や明るさというよりは、遠慮がちで慎み深さをもった人物として彼女を描いている)や(2)男女の愛憎(原作本をみると、阿部正弘や徳川斉昭はある種の色情狂であり、それが大奥内部に影響を与えていたことが看て取れる)など。しかし、基本的には、大河ドラマが原作を忠実に反映する必要はないように思う。今日日、大河ドラマはそれ自体が一つの創作であって、原作とは異なる解釈や見せ方が、いわば多様性として認められてもよいのではなかろうか。その意味で、原作本は大河を観る為のいわば「参考書」として活用できる。そうすれば、「篤姫」の世界を二倍楽しむことが出来るような気がする。
東福門院和子の涙 (講談社文庫)
この本を読むまで、東福門院という人の名前を、全く知りませんでした。
東福門院というのは、徳川2代目将軍夫妻の姫君で、今ちょうど大河ドラマで放映している江姫の末娘です。幕末に将軍家へ降嫁した和宮から遡ること約250年前、逆に将軍家から天皇家へ嫁いだ、こんな姫君がいたのですね。
一見、お金があって、身分があって、何不自由ない恵まれた姫君です。
しかし、実家の徳川家から次の天皇となる皇子出産のプレッシャーをかけられ、嫁ぎ先の京都で高位の公家出身の女性たちに嫌がらせをされ、旦那さんである天皇には大勢愛人がいて顧みられず、身分柄羽目を外して気を紛らわすこともできず、やり場の無い思いに夜な夜なひっそりと涙する、哀しい女性です。
20才前後で初めて読んだときには、同じ宮尾作品の『蔵』の烈や、『序の舞』の津也などと比べると、弁えが良い姫君で、実家の強力な後押しで順調に出世コースを歩み、何だか面白味が無いなと感じました。
そこから数年経ち、再び読み返したときに、この姫君の持つ、烈や津也とは別種の強さに心惹かれました。
負けん気丸出しで頑張るだけが強さではありません。人の幸せはお金や肩書きだけでは購えません。
そういうことが判る年齢になってから読むと、読み終えたときに静かな感動があると思います。大人の女性にオススメです。
松たか子主演「櫂」 [DVD]
本当に透明感のある演技で、実在していたかのような錯覚をおこされる
演技です。松たか子は、ズバぬけて美人という訳でもないけど
見ているうちにどんどんその姿や顔がきれいに見えてくる女優さんで
気品があるので、時代物も難なくこなしてしまいます。
なんとなくこれを見て、大河ドラマ主演を見てみたい!!と
思ってしまいました。
NHKは本当にドラマを丁寧に作っていて役者にも妥協がなくて
安心感がありますよね。
タイトルの「櫂」の意味は全編を通して、女性が自分の足で立って
自分で生きていくという事を示しているのですが
すばらしかったです。
宮尾登美子原作で松たか子のドラマのシリーズを
もっと見てみたいです!
錦 (中公文庫)
この人の小説はどれもそうだけど、やっぱりとしか言えません。
つまらない感想ですみませんが、圧巻です。
錦。
絹織物の一種ですが、それに取り付かれた男の話。
没落した名家の一人孫、吉蔵が傾いた家を立て直すために帯商いを始め、
最初はだまされたり躓いたり、苦労して特許を取った商品を真似されたり
裏切られたり・・・と紆余曲折を経ながらも、その技術と執念をもって
古代の「錦」修繕事業に取り組む壮絶な物語。男が主人公とはいえ、やはり
宮尾作品、彼を取り巻く女たちは耐え、忍び、儚くも強い芯を持った女ばかり。
文章は丁寧だし物語はまさしく織物のように少しずつ、だけど緻密に織られていき、
最後には荘厳な一枚布となる。その工程を見せてもらえるのは、同時代に生きる
ことの特権かもしれません。
尚、団十郎をモデルにした「きのね」のように、吉蔵にもモデルがいるそうです。