諏訪内晶子というと理知的で優等生的な演奏のイメージがありましたが、このベストでは、卓越した表現力で演奏を捉える強い意志も感じられ、ここ数年の充実した内面を感じさせる演奏が続きます。
ラフマニノフの「ハンガリー舞曲~『2つのサロン風小品』」での激しいパッションは、リスナーを圧倒します。続くサラサーテの「カルメン幻想曲」での高音の艶やかさは絶品ですし、低音の響きは迫ってきます。ストラディヴァリウスの"ドルフィン"を自分のものとして使いこなせてきたのでしょう。弱音の伸びやかさと美しさがしっかりと伝わってきました。
バッハの「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番」は最高でした。無伴奏ゆえ音楽家の実力も感性も全てさらけ出すことになる難曲で、フーガや分散和音をヴァイオリンだけで表現するのは至難の技です。堅牢ともいえるパルティータを見事に表現しており、技術的な確かさと強い意志とが相まって見事なバッハが再現されました。
チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調~第1楽章」は、ケレン味のない王道とも言える堂々とした表現力のある演奏でした。アシュケナージの指揮は正統派で、チェコ・フィルハーモニーの演奏も諏訪内晶子の演奏と同様、チャイコフスキーの音楽の心髄を追求した、という感じを受けました。カデンツァの見事さを是非聴いて確かめてください。
DVDでは、彼女の様々なコメントを聴くことができます。9歳の全国大会であがったこと、モスクワで優勝した瞬間の気持ちや、武満徹の音楽は西洋音楽とは別の東洋的な時間の区切りを独特の音楽技法として表現している、というくだりは興味をひきました。
リーフレットの写真もDVDも彼女の内面の美しさを表現していると思いました。
ああ、なんかクールである。
チャイコフスキーやラフマニノフはもうちょっと
悶えて欲しいなどとふしだらなことを考えてしまうが
凛とした響きがロシアもの、東欧ものの
持ち味のひとつであるからして、至極の一枚である。
1990年のチャイコフスキー・コンクールに優勝してから10年、やっとそのヴァイオリン協奏曲を収録したわけですが、個人的にはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲により惹かれ、第3楽章のダイナミックな表現には特に感心しました。力任せに弾くのではなく、理知的に崩れることなく全ての音を弦にのせ、オーケストラと一緒になってクライマックスへ突入する部分はワクワクします。
メンチャイという言葉があるように、ヴァイオリン協奏曲の代表的な2つの曲目ですから、期待度も高まると思います。ケレン味のないとても丁寧で真っ当な演奏でした。彼女ほどの技量があれば、もう少し大見えを切っても良いと思うのですが、良い意味で楷書風の演奏で、過度な表現を排除した真摯なものでした。
彼女の個性の一つとして音の伸びやかさと透明性があげられると思います。過度のヴィブラート等の表現を排除し、訴求力はあるのだけれど、節度のある表現がまた演奏家の知性を感じさせます。このように一般的によく聴かれる曲こそ、王道とも言える堂々とした表現力のある演奏が望ましい、と思いました。
ヴラディーミル・アシュケナージの指揮も至極正統派で、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏も彼女の演奏と同様、真面目に音楽を追求した、という感じを受けました。
ストラディヴァリウスの"ドルフィン"を使用とのこと。そのせいかどうかは分かりかねますが、弱音の艶やかさはしっかりと伝わってきました。伝統あるドヴォルザーク・ホールの雰囲気を捉えた録音ですので、メリハリを期待する向きには物足りないかもしれませんが、ホールの真ん中で聴いているような豊かな響きが感じ取れました。
もう、大人の女性の音色!!!!!! 聞いていると、諏訪内 晶子の世界に吸い込まれて行く 私がいることに、気づかされる。 ヴァイオリンと彼女が一つになって、この何とも言えない 音色と空間がこのCDには、ある。 スルメ烏賊のあように、聴けば聴くほど、良さが増す。 これは、是非一度、ベッドフォンで、聴いてもらいたい一枚だ。
コンクール本選の演奏は、彼女特有の激情を内に秘めた音色で感動を誘い、この演奏なら審査員全員一致での優勝も当然と思われた。 しかしこのCDは優勝後のコンサートの録音であり、高揚感は本選の演奏に比べて半減。 さらに最近の諏訪内の演奏を聴きなれている方には、楽器に依る音色が物足りなく感じられるかもしれない (ストラディバリのを貸与される前なので)
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