犬たちの隠された生活
11頭の飼い犬を、飼い主ではなく「学者」として、約30年にわたり観察しつづけた記録である。
犬が「自分」や「仲間」や「親」や「子」をどのように意識しながら生活をしているのか。それがまず、大変興味深い。集団の中での自己意識、というレベルでは人間もあんまり変わらないんじゃないか、という気がしてくるのが不思議だ。
飼い主としての愛情、犬たちとの心温まる交流といったエピソードも、もちろん膨大にあっただろうが、本書は、飼い主の感情は徹底的に廃し、犬の個体としての行動、犬社会のなかでの行動を坦々と綴っていく。それがために、全体に感情の起伏を抑えた大変静かな印象の本であるが、逆にその背景にとても大きく深い犬たちへの愛情が感じられて、それが静かな感動を呼ぶ。
動物を愛する人にとって、名著といっていいだろう。
トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫)
私は芸術を鑑賞するのは好きだが、トニオのように自分でヴァイオリンを弾くこともできないし、詩を書くわけでもない。それにもかかわらず、彼の孤独は痛いほどよく分かる。それはまぎれもない芸術家の孤独だ。芸術家でない者がこの孤独を共有することができるのは、それがきっとすべての人間に共通のものだからだろう。人は誰でも程度の差はあれ芸術家なのだ。それは、この本が出版後100年経った今でも多くの人に愛され続けているという事実が証明している。
私はこの本を大学教養課程のドイツ語の時間に初めて読んだ。この本の本当の美しさはドイツ語で読むとよりよく分かる。ドイツ語が出来る人は是非チャレンジしてほしい。翻訳でそのドイツ語の雰囲気をよく出しているのは、岩波文庫の実吉訳の方だろう。あの北杜夫も絶賛したという実吉訳の文体は直訳に近いが決して読みにくくはない。トーマス・マンの文体がもつリズムを忠実に再現していると思う。
バック・トゥ・ザ・フューチャー 20th アニバーサリーBOX [DVD]
この作品が好きな人には必須かもしれません。主役のマイケル・J・フォックスは今は体が自由に動きませんがその彼が元気に動き回っている姿を見られるのもファンにとっては感涙ものです。
デロリアンのナンバープレートは実際に自分の車に付けたいくらいです。
その他ではアメリカで放送したであろうと思われるドク主演のCMらしきものも入っています。
特典ディスクだけでも映画と同じくらいのボリュームでホントに大満足のパックですね。値段も下がってるので保存用にもう一個買ってしまおうかしら。
緋色の記憶 (文春文庫)
トマス・H・クックの作品は過失に満ちている。本書も例外ではなく、「チャタム校事件」にかかわった人々は道徳心に満ち、良心に苛まれ、古き良きアメリカの道徳を背負って生きていこうとする。しかし、起こってしまった犯罪は誰かが背負わなければならない。著者は緻密な構成とノンフィクションを手がけて養った裁判の心理戦を追うことで、一人の人間がそれをかぶる経緯を淡白な文章で負いつづける。そこで私たちは、犯罪というものはけして一人の加害者が、一人の被害者に向けて作られるものでないことを知る。
クックの作品は全て共通している。腕は新作ごとにあがっているが、あとはお好みで、というような感じで内容は似たり寄ったりのものであることが多い。これも、彼があるひとつのものを追いつづけており、読者もこの一つのものが欲しいために彼の著書を読みつづけるのではないだろうか。