妖魔の哄笑 (春陽文庫―探偵小説傑作選)
創作量はトップクラスを誇った、戦前派の推理作家・甲賀三郎の、今現在読める数少ない長編の一つ。冒頭の列車内での殺人事件、消失、そして謎の四本指の男の出現など読者を惹きつけるプロットで、さながら昨今のトラベルミステリーの様相を呈している。
何分、戦前の作品なのでご都合主義や偶然に頼りすぎるという欠点はあるものの、終盤はたたみかけるように謎が解かれていく面白さが味わえると思う。ただ、犯人の独白は正直、恐い。ある意味、この不気味さがタイトルの「悪魔の哄笑」を見事具現化しているといえる。
なにはともあれ、甲賀三郎ファンは一読の価値あり、そうでなくとも探偵小説ファンならば読んでおきたい一冊である。
五階の窓 (春陽文庫―合作探偵小説)
日本ミステリ界で初めて行われた連作推理小説として有名な作品。
大正15年に『新青年』に連載されたもので、江戸川乱歩が発端部分を執筆、以下、平林初之輔、森下雨村、甲賀三郎、国枝史郎と書き継ぎ、最後に小酒井不木が結末を担当している。
事前にストーリーや結末を打ち合わせておくことなどせず、全員が好き勝手に書いていったものらしい。そのためか、ストーリーが滅茶苦茶というか、結末の付けようがないというか、小酒井が随分と苦労してまとめたようである。非常に苦しい「真相」になっている。
連作推理小説というのは魅力があるようで、作家たち(や編集者)が「やってみたい!」と思うようだが、うまくいった例というのを知らない。これも失敗作だ。