いゃあ、まいった。面白かった。川島芳子はやっぱり生きていたんだね。筆者から説得力のある表現で綿密な資料突きつけられちゃうと、反論の仕様がない。
それにしても、夕陽の大陸を馬で疾走していく姿は、勇壮な西部劇にとんとお目にかかれない昨今、久しぶりに男の血を湧かせてくれた。女からそんな刺激を受けるとは、まことにへんな話であるが。彼女はやっぱり大陸の人間だったことを、あらためて思い直してみた次第。
気に食わないのは、芳子が関東軍の手先になっていたことだ。あれが馬賊を率いて日本軍に立ち向かうのなら、もっと格好いいのだが。
川島芳子のような人間がまたこの世の中に出てきても困るが、それでも今のつまらない時代には面白い存在だ。こんな暗い世の中、インテリのペシミズムなんてなんの役にも立たない。それよりアホなオプティミズムの方がよっぽど世の中のためになる。こんな破天荒なスーパーマン、いやスーパー・ウーマンが出てこないかなぁ。
この本を読み返すといつも不思議に思う事がある。著者のアガサ・ファセットは、アメリカへ亡命し結果1945年に白血病で亡くなるまでのバルトーク夫妻の5年の日々を、あまりに克明に綴っているからだ。なんだか一編の長編小説を読んでいるような気分になる。
もちろん人の記憶が、この5年という歳月の日一日の細部まで記憶していようとは思えない。やはり彼らの身近に居て、時には家捜しに付き合い、時には夫人の不満を聞き、共に旅行し、悩みの相談にのり…という、慣れない亡命生活に躓きながらも一歩一歩と歩みを止めない夫妻の生活に寄り添った日々を、その都度日記にでもつけていたのだろう…と察している。しかし…それにしては、本来ならばどんな天才にも凡人にも変わらない“一日”という時間をあまり劇的に装飾しているように感じられ…それが読者として一抹の違和感の基になっている。
ただ、この違和感をあえて抜きにすれば“最後の古典的な天才”と云われたベラ・バルトークという人の、余りにも大変な性質を窺うことができる。読み終えて、改めて邦題“〜晩年の悲劇”という言葉を眺めると正にそうだったのだ、と感じられます。これは、悲劇というよりほかに表現できない生涯だったのだと。逆に云えば1人の人間がここまでの領域に達する事がありうるのだと感嘆します。彼の死を、“寧ろ自殺に近いもの”…と書いたのは高橋悠治氏だったか。まったく同感です。
ブラームスの交響曲の中では地味な印象の2番ですが、幾ら聴いても飽きない曲でもあります。ザンデルリンクのブラームスはどれも素晴らしいですが、この2番も例外ではありません。とにかく構成が比類なくがっちりとしていてアーティキュレーションの正確さには文句のつけようがありません。ドレスデンはウィーンフィルよりも上手いオケなのではないでしょうか。第一楽章はもう少し歌と抑揚が欲しいということもありますが、これ以上は求められない楷書体の名演ということは断言できます。個人的には第一楽章のリピートがあれば申し分なかったのですが。それでも不滅の名盤です。
何度も語り継がれている演奏ですが、日本の一部の評論家の影響で、あまり評価は高くありません。
でも僕はこのメロディーを歌わせることに躊躇しない演奏が大好きです。また録音がフルヴェンや
トスカニーニより遙かに良好で現在のCDはかつてのSONYレーベルの音の堅さも払拭されています。
ワルターが数々のステレオ録音を残してくれたのは人類の文化遺産だと思います。最新のDAコンバー
ターを通して聴くとまた新たな発見がありますがポータブルシステムで聴いたとしても、美しく指揮
者の温かな誠実さは心にしみます。劇的な演奏は別の指揮者にまかせて、あたかも呼吸しているよ
うな音の流れに身をまかせれば、しみじみとした幸福感が心を満たしてくれます。
私は劇映画が好きなのでドキュメンタリーは結構退屈してしまう方なのですが、この映画にはつい目が釘付けになってしまいました。4年かけて撮りためた映像だということですが、それをつくりこむということはせずに、見せたいものをじっくり編集したという感じに思えました。だから一部、(私のようなドキュメンタリー苦手なものには)冗長に思える箇所もあるのですが、小細工なし、ストレートに作者が訴えたいことが伝わってきて、この終わりの見えない現実の悲劇に唖然とさせられます。正に“劇映画が好き”とかいうお気楽な意見が恥ずかしくなってしまうような・・・。ドキュメンタリーなので基本的には順撮りなのですが、最初にインタビューとかされていた人が後半殺されてしまったりしているのが、どうにもやりきれない気持ちにさせられます。(私、“ギミーシェルター”で自分のコンサートで人が殺されたシーンが映画になるのを後でビデオで確認するミックジャガーの画以上に、今回殺された仲間の映っているビデオを確認して泣いている人達の姿が衝撃的でした)何ともすごいフィルムです。ナイルパーチをめぐる政治的なドキュメントとしても勿論見れるのですが、それだけではないというか、そんなもんじゃぁないです。NHKとかでやってるようなもんではありません。
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