月と蟹(韓国本)
何冊か読んだ道尾秀介作品の中では、
ずば抜けておもしろかった。
けっこうグロテスクな描写が多い中で、
この作品の視点が、おもしろい。
一人の少年と、
その友人。
学校では孤立している二人が、
放課後、ある場所で、
秘密の儀式を行う。
小さな遊びだったことが、
次第に、願い事がかなうと言う、
不思議な出来事にかわっていく。
しかしそれもまた、
信じること、そのものもまた、遊びである。
子どもたちの間にあるそのバランスは、
危うく、そして微妙。
少年の日常にある、
悪意とか、嫌悪感とか、
もっと単純な、好きだとか、嫌いだとか、
多くの負の感情を丁寧に描き、
その弱さをさらしてしまう少年という、
誰もが愛すべき、
期間限定の時代の話。
重さや事象の違いこそあれ、
誰もが抱える心を押しつぶすような問題。
そして、弱い心。
大人だと、つい男と女とか、
単純な問題になり、
そして、ずるさも含めた計算になるのだが、
子どもたちはむっとピュア。
その無垢な心の、
ディテールにこだわった作品だった。
懐かしさとともに、
苦さの残る秀作。
龍神の雨 (新潮文庫)
人に想像、感違いが事件を生むという著者得意の構成の小説。その構成は愛読者なら分かっているものの、その仕掛けのうまさに最後まで読み進む形になる。今回は雨(龍)がそのキーワードになるが、全体が湿気に富んだ鬱蒼とした感覚に包まれており、そのじめっとした感覚の犯罪が展開する雰囲気を高めている。
龍が象徴するものは何かいろんな解釈が可能かという感じがする。
カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)
詐欺師の話だけあって、小説自体もトリックに満ちた作品。
ドロドロした闇金の話、ほんわかした同居生活、
そして起死回生の大勝負。
最後があまりにどんでん返しで、予定調和すら感じてしまった。
犯罪小説というよりは、コン・ゲーム。
なかなか面白かったです。
光
道尾作品の最新作が出たとのことで,発売日当日に購入し先ほど読み終わりました。 道尾作品を全て読んでいるという前提でレビューを書かせていただきます。が,これは素人の単なる評価(感想)に過ぎません。 道尾作品は,『背の目』に始まります。レェ,オグロアラダ,ロゴという奇怪な文章に始まり,本格的なミステリー小説を堪能できる内容でした。 また,『シャドウ』や『ソロモンの犬』等では,物語の後半に「なんだ!!そういうことか!!」と,思わず唸ってしまうようなどんでん返しがあり,読者をいい意味でミスリーディングさせる「才能」を存分に発揮された作品が続きます。 その「才能」が特に発揮されたのが『カラスの親指』であり,大薮春彦賞を受賞された『龍神の雨』なのだろうと思います。 その後,道尾作品は上記の作品の特徴である「どんでん返し」のある内容から,濃密な人間関係を描く物語へとシフトチェンジされます。『球体の蛇』,『光媒の花』,『月と蟹』,『水の柩』はいずれも人間関係や家族関係に悩みつつ,それでも成長していく主人公を見事に描いており,読んでいる側に訴えかけるものが相当あったように思います。この点で,『光媒の花』が山本周五郎賞,『月と蟹』が直木賞を受賞されたことは,十分に納得できるものとなっています。 (前置きが長くなり申し訳ないです…) 本作品『光』は,上述の分類を前提とすれば後者に分類されると思います。特に,『月と蟹』で描かれた,少年時代の懐かしい気持ちに戻ることのできる点は本作品でも上手く表現されていました。 一方で,道尾作品に「どんでん返し」を期待される読者の方には少々物足りないのかもしれません。が,本作品の随所にも小さなどんでん返しはあることを付言しておきます。 本作品は近時の道尾作品の傾向に沿った内容で,私個人は満足しました。が,どんでん返しに期待された方の思いを込めて-1とします。