月夜の雨
純粋に音楽だけで柴田淳を経験したくて、あえて通常盤を買ったが、これほどレベルの高いミュージシャンとは知らなかった。
何かを予感せずにはいられない1に始まり、内省的な歌詞ととびきりスケールの大きな楽曲との対比がとても素晴らしい2で早くも一気にピークを持ってくる。
親しみやすくシンプルなメロディーなるも完成度の高い3、ユニークでコミカルな言葉のベールで隠した焦がれる恋心がせつない4まで、本当にあっという間に聞かせてしまう。
せつなさはボサノバ調の7でも全開だが、8はブラックユーモアな歌詞が雰囲気を一転させてしまい、思わず笑ってしまうほど楽しい。
アルバムは9以降落ち着いた和風テイストになる。11はジャンルを超えた名曲、そしてラスト13は見事にポップスの王道を行く。
ジャケット、様々なインナーショットも素晴らしく、完璧なアルバムとしか言いようがない。
NEWOLD
大橋トリオのメジャー2ndフルアルバム。
今作までのほぼ全ての音源を聴いた上で、
今回のアルバムはその上位に位置するよいアルバムであると考える。
彼は「大橋好規」の名で
インストゥルメンタルやサウンドトラックを制作、
また「大橋トリオ」の名で、本作を含めたボーカル曲を作成し、
温かな歌声と安定した演奏で、確固たる「大橋スタイル」を築いている。
ただ、その柔らかく温かい歌声が特徴であるだけに、
アルバムを通してその個性を前面に出した構成になっている。
私のように、この声が好きな方、もしくはファンである方には、
むしろ心待ちにしていた楽曲群なのだろう。
しかし、このタイプの曲を「嫌いではない」、
又は「普通」ぐらいに思っている人にとって、
「THIS IS MUSIC」「A BIRD」等、8曲構成のミニアルバムはともかく、
前作「I Got Rhythm? 」のように、10曲を越えたフルアルバムともなると、
飽きがきたり、曲それぞれに個性が発見できないまま
聞き流してしまう、といったケースも考えられるだろう。
実際、大橋トリオのファンである私は、
何人かの友人に彼のCDを薦めてみたことがある。
その時、結果的にフルよりもミニの方が反応がよかったのである。
あまり気に入らなかった人からの感想としては
「全部同じに聞こえる」「飽きる」であった。
(私は全ての曲に個性を感じているので、そこはあしからず)
そして今回、二度目の「フルアルバム」。
どのように工夫してくるのかと待っていたら、
「他のアーティストとのコラボレーション」
なるほど、名案である。
大橋トリオは前述の通り、演奏力は安定しており、
コラボレーションにより個性が埋没することは絶対にない。
想像以上にマッチした合奏に正直驚いてしまった。
活動拠点を海外に置く音楽プロデューサー・半野喜弘とのタッグをはじめ、
4曲目では各地のライブで根強いファンを多く持つシンガーソングライター・浜田真理子、
5曲目はギター好きなら誰もが知っている日本を代表するギタリスト・布袋寅泰、
7曲目では映画「ゲド戦記」で一躍有名になったシンガー・手嶌葵。
それぞれが見事に大橋トリオ色を損なわず、
きっちりアルバムのアクセントになっている。
アルバム中盤にコラボ曲を集中させたことで、
大橋トリオ色に導入するため少しずつ盛り上げる前編、
コラボレーションを中心とした色とりどりの中編、
CDの終わりに向かうしっとりとした後編の、全3部で構成しているようにとれる。
ながして聞けば、そのやさしい雰囲気につつまれた幸福な時間に心安らかになり、
集中して聞けば、その音世界を紡ぐ音一つ一つの選び方に感心する。
大変よくできたアルバムである。
「他のアーティストとのコラボレーション」というかたちで、
また一つ名盤を作ることに成功した大橋トリオ。
今後の活動に大いに期待したくなる作品であった。
初回盤のみに収録されている「トリドリ」も
絵本とのコラボという異色の意欲作。絵本を片手に聞いて頂きたい。
ソロにこだわった大橋氏が、
「コラボレーション」により自らの殻を打ち破った記念すべき1枚。
Dear FriendsV
Dear Friendsシリーズは全て持っています。毎回、発売前のリクエストでは「真夜中のドア」をリクエストしていました。今回、リクエストが叶った上、八神純子さん花田千草さんバブルガムブラザーズバンドとのすばらしいコラボレーションも実現され最高の出来上がりとなりました。次回作のコラボレーションを楽しみに期待して待っております。