「ぬるめ」というのはあくまで個人的な印象ですが、 全体を通して、人が殺されたり殺したりといった展開が殆ど無いというのは確かです。
基本的に『キミトピア』という書名が示すように、 それぞれの主人公が自分の置かれた環境に違和感を感じ、 自分が変わったり、他人と協議したりすることで 適応していこうとすることが、ひとつのテーマとして一貫しています。
既作品で一番近い作風なのは『ビッチマグネット』辺りでしょうか。あちらは長編ですが。
また、この中には第148回芥川賞候補となった「美味しいシャワーヘッド」も収録されています。 これは、中性的かつ他人とどこかしら距離をとって生きているような男性=小澤を主人公とし、 彼を取り巻くさまざまなエピソードが非連続的に陳列されているという作品です。 ここでは主人公と彼を取り巻く周りの人々の事件は一定の距離感を保っており、 その距離感が、私たち読者と作中の出来事との距離感と非常に近い。 すなわち、ある意味で私たち読者が、 主人公の主人公の目線にシンクロした状態で物語を読み進めていくことが前提の作品となっています。 そして最終的にたどり着く結論は、陽性であり、腑に落ちるものではありますが、 舞城の強烈な作品の数々を読んできた身としては、 いまひとつ足りないものを感じたりもするというのが正直なところです。
全体的に奇天烈なガジェットも比較的少なく、おかしいのは登場人物の方であって、 世界観そのものは多くが現実的です(「ンポ先輩」や「あまりぼっち」は例外ですが)。
表面的な作風はともかく、作家性の根っこは相変わらずの舞城なので、ファンの方にはお薦めの一冊です。
他の方も書かれているけれど、謎解きの部分は別にどうでもいいんではないかと思う。 展開の速さや、暴力シーン、少し雑な推理と最後の友情まで持っていくその「文体」がすごい。一人称(の主人公)が思ったままの言葉でつなぐスピード感のある文章は書きなぐっているようでいて、きちんと計算して書かれているような気さえする。 最後の感動がいいのではなく、一気に方向転換しても読者をひきつけられる文章力こそが多分すごいんだと思う。
第131回芥川賞候補になり評価が真っ二つに割れた「愛は祈りだ。僕は祈る。」から始まる文学界の問題児・舞城王太郎渾身の(SF要素入りまくりな)純愛小説。饒舌な文体で正面から愛を語る。文句無しの5つ星。買うのちょっと恥ずかしかったけど買ってよかった。
セカチュー批判(批判というよりはパロディ?)も籠み。僕らは大切な人の死というメタ化された設定によってつい泣かされがちですが、本作はそんなメタ化された設定を超えて紡がれる物語。いや、これは文学だ。さらりとフラットに書かれているせいで涙は出ず。けどそれよりも深いところを衝いてくる何かがある。是非一読下さい。
ナックスのリーダー目当てで二月に円形劇場で見た時から、DVDをとても楽しみにしていました。
殆どの登場人物が首から上しか出演せず、動きの無い舞台です。
必然登場人物たちの会話でストーリーが進むことになるのですが、話の性格上、叫んだり怒鳴ったりする台詞も多く、聞き取りにくいところもあるかと。
ただ、それ以外は私はとても楽しめましたし、河原さんの独特の台詞回しや、森崎リーダーの色々な意味で哀れな役所、鈴木さんのキレた演技、溝端君の後輩気質なキャラ設定は必見だと思います。
舞台を見るまで、溝端君って何となく苦手に感じていたんですが、実際に見てみるとメイクはしているんでしょうが肌は綺麗だし整った顔をしてるんですよね。
星を一つ減らした理由は、特典映像の稽古風景に、リーダーがいなかったこと。
ちゃんと「森崎さんはお休みでした」と出ているんですが、どうせならみんなが揃った時に収録してほしかったな、と。
『美しい馬の地』では、 何だかよく分からないけど流産がとてつもなく許せなくなった男が主人公。
心理描写をひっくるめても、それは「衝動」に近い感情。
どれくらい流産が許せないかといえば、過去に流産し、死んでしまった友人の子供に祈りを捧げてもいいか、と持ちかけるくらい。
そしてそれを断られても、食い下がるくらい。
泣いてしまうくらい。
台無しになった宴会を途中で抜け出したところを、憤慨した別の友人にボコボコにされ、階段から突き落とされるくらい。
とにかく、 「一作目からこれか……」と思わずにやりとしてしまったことをよく覚えている。 『短編五芒星』に収録された作品は舞城ワールドからちょっと外れたり、実験的な要素もありません。
確かに、『煙か土か食い物』や『世界は密室でできている。』とは違うかもしれませんが、舞城作品にはすべて一本の線で繋がれています。
五芒星ではなく、直線。
離れてはいない。 すべて繋がっていて、すべてに暖かさがある。
文学といえば「暴力」、「性」だが、どんな凄惨な場面であろうが、舞城ワールドには「まあそんなこともあるわな」的破天荒さ、無邪気さが同時に含まれている。
それを私は、「暖かさ」だと表現したい。 必要以上に持ち上げない、でも時には必要ないくらいに汚い部分を持ち上げる。
日本を代表する文学者の誕生を確信しました。
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