若手注目画家、諏訪敦氏の作品集です。
写実絵画というのは美術の中でも、俗な言い方ですが《判りやすい》分野ですから、それほど絵画に興味が無い方でも、諏訪氏の描く絵には入り込みやすいのではないでしょうか。
しかし一方で
写実画というのは(特に諏訪氏の作品には)これ程までに冷徹で、無慈悲で、容赦ない描写に、いささか気後れしてしまう感覚を同時に抱く一冊かもしれません。
この作品集を見て感じたのは諏訪氏にとって絵を描くという行為は《現実・リアルの忠実な記録》を表現しているでは?という事です。
特に自身の実父の病床に臥す姿を描いた作品や、今際の際を描いた作品には、美術という価値観には不釣合いな(ある意味対極な)程のリアリティを追求しているのが感じ取れます。
数年前、某美術専門誌での山下裕二氏(美術史家)との対談のなかで、諏訪氏自身この《写実画家》と呼ばれる事に居心地の悪さを感じている事をうかがわせる発言をされていますが、それは「もう既にそんな事からは突き抜けたトコロに居る」という自負の表れなのかもしれません。
この作品集のタイトルの「どうせなにもみえない」とは諏訪氏自身がそのジレンマを吐露した本音なのかも・・・・
面白い試みだったのは
同業でもあり、こちらも注目される日本画家、松井冬子氏をモデルにした作品。
全く作風が違うにもかかわらず、どこか不思議と松井氏自身の作品を彷彿とさせるその絵は、他の諏訪作品と比較しても異質に見えます。
超絶技巧絵師、諏訪敦に見えているモノは、我々には一生見えない、あるいは気づかないモノでしょう。
しかし、我々は諏訪氏の作品を通してそれを知ることができる・・・・・
この作品集はそんな役割を示してくれているのかもしれません。
ジャックハムの「人体のデッサン技法」と
こちらの本、どっち買うか迷って、先にハムのほう
を買いましたが、ハムのほうは結構本格的(関節の仕組みとかまで)
で一人の人物中心、体のパーツごとの詳しい動き専門(かなり詳しい)
でした。なので全身で見たときの動きが初心者の自分には
ちょっとわかりづらい印象でした。
対して、こちらは全身の動きの描きかたから、
筋肉、パース(複数人物と背景みたいな)まで説明してくれていて、
初心者の自分でもわかりやすかったです。
マンガ描こうと思ってる人は先にこっち見るのを
お勧めします。
この絵画作品集、ずっと大切にしたい。
なぜなら、本物だから。
本気の本物の人が描いた作品だから。
これからもたびたび作品集を開いて描写からうかぶ野十郎さんという光景と会話したいと思う。
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しかし多くの画家はなぜもっと存命中に光が当たらないのだろう。
もちろん野十郎さんなら、脚光という名のシラジラしい光から来る邪魔なものどもを疎ましく思ったかも知れないけど、、、。
人間が築いた理屈など吹き飛ぶのが素晴らしい作品の価値だと思う。
ただ言葉を失い、ただ見る、ということでもある。
う〜ん、しかし、ホントいい作品集だ。
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PS:
作品集だけではなく、野十郎さんの生きザマを紹介した本もある。
なんだか野十郎さんの「唯一わが道」という人生の選択は、単純大衆迎合な現在の我々に多くの方向性や人生の選択の可能性を教えてくれている。
勇気をもらった。
感謝である。
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