新・平家物語(一) (吉川英治歴史時代文庫)
本作品のような歴史小説に書かれていることを全て事実と思い込むのは間違いであるが、だからといって事実のみを積み重ねただけでは歴史は見えてこない。歴史教育とは普通、後者を指すが、私は歴史小説を読ませた後に歴史教育を施した方が、より深く歴史と言うものを理解できるのではないかと思う。
政治権力の中心が武士に取って代わられていく、日本にとっての大きな転換点とも言える本作品が扱ったこの時代は、現代の日本を認識する上でも非常に重要であるし、いまだにそこから多くの教訓を読み取ることができる。この時代を学ぶための土台として、本書のようなエンタテインメント性の高い作品が存在することは、幸いと言うしかないだろう。文庫本にして16巻という長大な作品であるが、時間さえあれば、苦もなく読み通せると思う。私が本作品を読破したのは最近であるが、高校の日本史を学ぶ前に本書を読んでいれば、どんなに歴史を自分の血肉にできたであろうか、と今さらながら悔やまれる。
(これは全巻を通してのレビューです。)
モオツァルト・無常という事 (新潮文庫)
そもそもこの本は昭和36年5月に初版が刊行され、平成3年11月に56刷改版。それが平成18年4月に74刷まで増刷して8月に75刷が改版となりました。では、今回の改版で何が変わったか? 3つあります。まずは版組が平成3年版よりゆったりしました。昭和36年版は1ページ18行(1行43字)、平成3年版は1ページ17行(1行41字)が、平成18年版では1ページ16行(1行38字)になっています。次に富岡鉄斎論が昭和23年の「時事新報」に発表された現行題「鉄斎1」だけだったのに加えて、昭和24年の「文学界」の発表の「鉄斎2」と昭和30年角川書店「現代日本美術全集第1巻」所収の「鉄斎3」計2編が増補されています。そして、「小林秀雄全作品」の脚注に基づいた注解が60数ページにわたってついています。上の画像は平成18年版(「小林秀雄」の文字がセンタリングされています。平成3年版は左寄せ)のものです。注解はおおむね辞書的なものですが中には梅沢万三郎の当麻を「著者が観た公演は昭和17年2月頃に行われたものと思われる」と踏み込んだ注解もあり星5つつけましたが、雪舟(や顔輝)の「慧可断臂図」や光悦宗達の図版もあるとより一層いいですね。
待賢門院璋子の生涯―椒庭秘抄 (朝日選書 (281))
院政を始めた白河法皇と孫の鳥羽天皇の中宮待賢門院璋子との情交を中心に描いた皇室の裏面史。当時の第一級の史料を渉猟して歴史の疑惑に迫る研究書。荻野式受胎法(避妊法)を駆使して、系図上は鳥羽天皇の子である崇'コ天皇を、祖父白河法皇と待賢門院璋子との子であることを解き明かすくだりは、よくぞここまでと感嘆のほかはない。ともすればスキャンダラスに陥りがちな題材であるが、真摯な筆さばきがこの書物に品格を与えている。
ひょっこりひょうたん島 ヒット・ソング・コレクション(オリジナル版)
ひょっこりひょうたん島は、再放送しようにもほとんど残っていないので放送できない幻の番組ですが、歌の音源が残っていたとは驚きでした。当時は小学生で、かなり長期に渡って放送された番組ですし、ほぼ毎日見ていましたのでうれしさもひとしおです。しかし、ドン・ガバチョ役の藤村有弘さんの歌は最高ですね。この人の突拍子も無い声の吹替えが、この番組の人気の一端を担っていたことは間違いありません。当時は良く真似してました。どの曲もあまり覚えていませんが、当時が思い出されて涙が出そうです。「ガバチョのテーマ」「魔女リカのテーマ」はインパクトが強く、良く憶えています。しかし、しかしです。あの曲が無い。もっとも良く憶えていたあの曲が...。海賊の四人組が、穴を掘りながら歌っていた(良く歌っていた記憶が有ります)あの曲が。エイホホウ、エイホホウという掛け声から始まる曲ですが。このCDを買った時にすぐ探しましたが、入っていないのを知った時は落胆しました。解説にもこの曲には全く触れられていませんでした。ほかの方も書いていますが、やはり、歌詞の一分に問題有りとされたのでしょうか。そんなわけであえて曲名は伏せますが、確か新版のドラマでは歌われていたと思います。今ではさしたる問題も無いと個人的には思いますが、画竜点睛を欠くとはこのこと。非常に残念です。続編に期待します。
新平家物語 (英文版) - The Heike Story
吉川英治版『新・平家物語』の短縮英語訳。どれほどの短縮具合かというと、元は文庫本で全16巻の話、と言えば推して知るべし。平清盛の出世話に焦点が絞られて訳出されております。英訳の質について喋々出来るほどの英語力はありませんが、原文の方が美しく感じるのは、実際そうなのか、我が母国語が日本語だからというだけのことか。ともあれ、歴史小説好きで英語が読める方、お薦めです。歴史小説で馴染んできたあれやこれやの用語が「英語ではこう来るか〜」とホウホウ面白がりながら読めますし、外人に日本史の話をする時にも役に立つかも(←無理やりか?)。
ちなみに私は吉川平家を中学生の頃に図書館から借り出して読みましたが、鮮明に記憶している下りがあります。比叡山の悪僧が神輿を担いで都に強訴に押し入る場面。悪僧に立ち向かうは平清盛。「神輿に矢を向けるとは血へどを吐くぞ!」と脅された清盛は「血へど、吐いてみたいわ!」と返してシュッと矢を放つ。中学生の私は「キャー」と興奮して、ここはマイ名場面となりました。英訳を見たらば、「血へど吐いてみたいわ」は「So be it!」となっておりましたです。「ままよ」ってな感じですか。ガッカリするよな納得するような。古典級の小説の翻訳は大変ですね。