マーキー・ムーン
詩情に満ちたアルバムです。
トム・ヴァーラインの歌は妙にヘナヘナしていて、
目に見えない遠くの物を見つめているようです。
音は、ツイン・ギターの絡まりが印象的であるが、
もっと言うと変則的なハイハットやニヒルなベースなども絡まり、
淫靡ささえ感じます。
トム・ヴァーラインとリチャード・ロイドの、
粘り気のあるギタープレイは本当に素晴らしい。
若さに見合った刺々しさもあるのだけれど、
それを理性でもって見事にコントロールしています。
金属的でありながらも、滑らか。
まるで水銀。水銀が流れ込んでくるのです。
必聴すべきはやはりタイトル・ナンバー『マーキー・ムーン』です。
イントロだけでも詩的で、宵闇の情景が広がります。
静かにリフが重なり合っていき、
ハイハットを絶妙に絡ませたドラムが鳴り出すと、
もはや異世界に引き込まれるでしょう。
パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ (デラックス・エディション) [DVD]
11年間も密着しただけあって、内容の濃い映像になっています。ライヴ映像は断片的ですが、迫力満点。在りし日の両親とのショット。幼い子供たちとのショット。パティが自分の人生観・死生観について語るくだり、など。ボブ・ディラン、トム・ヨーク、ボノ、マイケル・スタイプ、アレン・ギンズバーグなどとの交流・関係もうかがえます。109分。
以上がレンタルでも見ることのできる内容。
ディスク2はセルのみ。30数分のアウトテイク。来日時の姿。原宿でのイヴェントの模様。そして予告編。合計65分。
あとは、ポスター型の解説書。ポスターの裏に解説文が印刷されています。ディスコグラフィのほか、監督紹介、人物解説があり。
残念なのは、二点。ひとつは、やはり楽曲使用料・使用許可がネックになっているのか、来日時のイヴェントでのライヴ・パフォーマンスが収録されていない点。もうひとつは、何を勘違いしたのか、“恋愛でキラキラ輝く”というような女性誌的な視点で、パティをセレブリティ扱いして、それまでのトークの流れを無視して「どうしたらパティみたいにそんなにみんなに恋をされる素敵な女性になれるの。その秘訣は何なの。監督だってパティに恋をしてるんでしょ」みたいな女性のこっぱずかしい質問、おべっかまでを切らずに特典映像に収録している点。
ゴーン・アゲイン
8年も前の前作「ドリーム・オブ・ライフ」は少々ぬるめの音だったので、あまり期待していませんでしたが、
1曲目から張り詰める、緊張感の凄まじさ。
最初のほんの数秒で、「このアルバムは凄い」と確信できました。
鋭利な刃物のように研ぎ澄まされたパティが、ついに帰ってきたのです。
ここにあるのは、多くの親しい人達を失った悲しみ…ではなく、「祈り」と「愛」です。
決して悲しいレコードではない。どこまでも強く深い愛情に溢れています。
間違いなく、90年代のベストアルバムの一つです。