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ココ・アヴァン・シャネル特別版 [DVD]

消化不良感が残る作品。誰もが知っている人なので、作り方が難しいのはわかるが、本当に難しい部分を取っ払って「成功前夜」ということでごまかしてしまった印象。ココ・シャネルが孤児だったことくらいはおおよその人は知っている（というか、Wikipediaを見ればわかる）。で、華麗な男遍歴や、一生結婚しなかったことなども、旧知の話である（知らない人も、Wikipediaを見ればわかる）。それをどう解釈してどう表現しているのかという部分が映画の見せ所なのだが、これがさっぱり面白くない。貴族の愛人として邸宅に暮らし、別の貴族（崩れ）に恋をして、その間になんとなく有名なデザイナーとして成功していました、という内容。これでは単なる「風変わりな女の成り上がり物語」である。こういう人物を描きたいのなら、伝説の女、ココ・シャネルを持ち出さなくてもよかった。居候生活を謳歌しているココに「私は仕事がしたい」などというセリフをいわせているが、言葉が上滑りして説得力がない。シャネルの生きた時代のヨーロッパ（日本も）はものすごい格差社会で、男女差別社会であったことはよく描かれている。また、ココの天性のセンスの良さを一生懸命伝えようとしている努力も感じる。しかし、自分が居候させてもらっている相手の服を勝手に切り刻んで自分用に仕立て上げるような無神経なことを本当にやっていたというのは、仮にそれに近いことがあったとしても、にわかには信じがたい。シャネルの後半の人生画をばっさり切って前半にフォーカスしているのにもかかわらず、あえてそうした効果がどこにも感じられないのである。チェ・ゲバラの“avant che”時代を描いた「モーターサイクル・ダイアリーズ」は、彼の彼の人格、思想、経験、人間関係といったものが革命活動にどう結びついていくのかという想像をかきたてる作品に出来上がっていて、見ごたえがあった。残念ながら、「ココ・アヴァン・シャネル」からは、孤児の女性という最底辺から、100年以上揺るがぬブランドを築き上げた女の怪物ぶりを髣髴させるものはほとんど感じられなかった。