本作冒頭でアイスランドの規制緩和がどのような結果を招いたのか…。経済の破滅と環境破壊、銀行の破綻に続く失業率の増加…。お決まりの道。「これはNYも同じだろ」アイスランド大学教授ギルフィ・ゾエガの投げ掛けから始まります。ポール・ボルカー、ドミニク・ストロス・カーン、ジョージ・ソロス、バーニー・フランク、デビッド・マコーミック、スコット・タルボット、アンドリュー・シェン、リー・シェンロン、クリスティーヌ・ラガルド、ジリアン・テット、ヌリエル・ルービニ、グレン・ハバード、エリオット・スピッツァー等各界の著名人から様々な証言を集めています。リー・シェンロンは「無から有を生めるんだ。誘惑に勝てない」と人々の欲望が原因であることを述べ、ヌリエル・ルービニは徹底した調査が行われない原因について「真犯人が暴かれるからだ」とし、エリオット・スピッツァー元NY州知事は監督当局の怠慢を告発しています。
2008年9月15日、リーマン・ブラザーズが破綻しました。続いてAIGの破綻が続き、世界を金融恐慌に引き込みます。本作では金融業界の暴走をその原因にしていますが、レーガン政権の元、金融緩和はアメリカ全土で熱狂的に支持されました。私は金融業界を暴走させた燃料はどこから供給されたのかに関心があります。金融業界だけの責任でしょうか。
アラン・グリーンスパン、ルービン、サマーズらは金融緩和を強力に推し進めました。シティバンクとトラベラーズの合併はグラス・スティーガル法に違反していました。合併後1年の猶予を与え、グラム・リーチ・ブライリー法(別名シティグループ救済法)を成立させることで、グラス・スティーガル法を廃止、これで晴れて合法的にシティグループが誕生しました。ルービンは後にシティグループの副会長に就任します。金融機関は大きくなればなるほど潰せません。経営側はそのことをよく知っています。ソロスは隔壁の無いタンカーを例えに出しています。大恐慌後の規制はこの隔壁に相当します。レーガン後の政権はこの隔壁を外す作業をしてきたのでした。規制緩和の結果、資金洗浄や詐欺、粉飾決算などが多く摘発されました。タンカーに積まれた液状化したお金は左右に大きく動き、タンカーの安全な航行そのものを脅かすようになりました。我が国のバブルがはじけた頃、アメリカでは金融規制緩和がさらに進み、金融工学と融合し、新たな商品を生みだしました。デリバティブです。冷戦後お役御免になった数学者や物理学者は、投資銀行と共にその知見を戦争ではなく、金融市場に見出しました。デリバティブは何でも投資対象にします。その危険性を告発する者も現れましたが、政治的に抹殺されただけでなく、デリバティブには規制不要という商品先物近代化法が成立しました。それ以降、ヘンテコリンな金融商品が多数登場します。投資銀行、金融複合企業、保険会社、格付け会社は証券化で連鎖関係を築き、住宅ローンを使って奇怪な商品を作りました。様々なローンと組み合わせた債務担保証券CDOです。貸し手は返済が滞っても損失がないので、だれにでも貸付ます。規制はないのですから罰を心配することもありません。借りる側も自分の返済能力を大きく上回る額を借金できます。モラルハザードです。その他レバレッジやサブプライムローンについて詳しく触れています。
1番お金を儲けたのは金融機関に勤めていた人間なのは間違いありません。しかし、レビュアーのKsnokyさんが「※おまけ」で記しているように、決して彼らだけの責任にしてはいけないと思います。本作は、金融危機が金融機関、政治家、監督官庁、学者の共同犯罪であることを浮き彫りにすることには成功していますが、もっとも根本的な問いには答えていないように思えます。貸す側の高報酬と罰則なき無責任。借りる側の奢侈と無計画。相互のモラルの破綻が招いた結果だと思うのです。
経済学のエッセンスが非常にうまくまとめられたコミックです.そうコミック.私の場合,本の紹介文のみ見て購入したので,実際にそれが届くまでコミックだとは想像していませんでした.
そんなこともあって最初ちょっと失敗したなー,と思ったのも確か.でも,読み始めてみると,エッセンスが非常によくまとめられていて,買ってよかったなー,と思っています.コミックなので,深堀は他の本に任せる形になりますが,ミクロ経済学の主要なところを俯瞰するにはとても良い本だと思います.
索引もついてるので,本棚に忍ばせておけば,そういえばあの言葉ってどういう概念だったけ?ってときにも役立ちそうです.
映画『もののけ姫』では人と自然がともに生きる道はないのか?ということが主なテーマとなっていたと思いますが、人間が人間らしく活動的に生きることと、自然を守っていくことは相反することでしょうか?本書はこの疑問に回答を示している、とまではいえません(それは「拡散する問題」ですから)が、このような疑問を持った方は一読されることをおすすめします。本質的に何が必要で何が問題か、少し方向性が見えてくると思います。 また、環境問題についてはより根本的で具体的な改善への途が示されています。というのも、本書の著者は現実に基づかない経済理論に飽き足らず、実業界の経験を積んできたという経緯をもつ人物だからです。本書からは著者の経験と信仰に基づく一貫した姿勢を伺うことができます。 間に合わせのエコロジー、間に合わせの人間尊重というフレーズに飽きた方は読んでみると良いでしょう。経済学や形而上学的な考え方が少し難しいところもありますが他の資料を参照しながらでも読む価値はあると思います。
本書は途上国における法的障害の多さを初めて指摘したことで知られている。
資本主義が発展しているのは西側の諸国だけで、その他の国々は置いて行かれているように思える。自由貿易を行い国内通貨を安定させ債務を減らすというマクロ経済指標の改善を行ってきたラテンアメリカは、依然として発展しきれていない。この本では発展を阻害する要因を公的な財産権制度の欠如にみている。 たいてい人々は生産に必要な資産は持っている。しかしそれは死蔵されている。資産が資本となり拡大再生産を始めるためには、公的な財産制度が必要なのだ。たとえばハイチでは政府所有の土地に住んでから賃貸することが認められるまで5年かかる。合法になるにも、合法で居続けるにもコストがかかるようでは政府の保護の外で暮らすことを選ぶのも頷けるというもの。資産を資本(=拡大再生産可能なもの)にすることができ、社会に広がった情報を一つに統合でき、所有者の説明責任を果たさせ、資産を分割・統合・移動可能なものにし、人々のネットワークを育て(分業が行いうるようになる)、取引を守る。このような法的保護のメリットを受けられない闇市場は潜在的にとても大きいのだ。 役所は治安や衛生、ダムといったそれぞれの職務を抱えている。そのため所有権制度の欠如という総合的なものの見方をすることができなかった。 アメリカの歴史は示唆的だ。Green vs Biddleやゴールドラッシュなどの事例で、先占権、占有権の判例法が生じていった。事実上生じていた権利関係を尊重し、公的に保護することが重要であると何度も何度も繰り返される。 もちろん途上国は公法・私法の欠如に気付いていなかったわけではない。しかし現実の関係を無視して書類上で権利を与えるだけで、効果を生まなかった。たとえば犬が土地の境界線を知っているなら、任せてしまえばいいのだ。事実を重視すべきという姿勢がまた繰り返される。
法学用語は直訳できないし、マルクス経済学や哲学の抽象的議論は多いしと普段見慣れぬ語り口が多いため読むのには骨が折れるとは思います。
堅苦しいマクロ経済学をかみ砕いてわかりやすく説明しようという 試みは評価できると思われます。
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