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パール・ハーバー ブラディ・ダーウィン: もうひとつのパール・ハーバー

本書『ブラディ・ダーウィン』は、1942年2月19日オーストラリアの港湾都市ダーウィンへの日本軍による攻撃と、その余波をつづったノンフィクションである。真珠湾攻撃から2ヶ月あまり後の出来事だけれども、第二次世界大戦の戦史にも記述がほとんど見られないという。僕のオーストラリアへの知識不足だけではなく、オーストラリアにおいても語られることが少ないようだ。今もって史上最大の犠牲者を出したにもかかわらず。何故なのか。僕の本書の興味の中心はここにある。ダーウィンの成り立ちや、地理的な特徴、大戦における戦略的位置づけ等、詳細に解説されているので予備知識なくとも読み進められる。ただ、著者がオーストラリアのジャーナリストであるから本国では自明のイギリス連邦との関連や、白豪主義については詳述されていない。ここは、おさえておいた方が良いだろう。  本書は、政府の刊行物や、同テーマの書籍、当時の関係者の証言の数々からまとめ上げられている。所々、著者による考察が見られるとはいえ、戦史としての事実が淡々と続くため、一気に楽しく読めましたとはいかない。じっくり読み込んでいくことになる。ひとつの事実を、証言を挿入しつつ多視点から詳述しており、ノンフィクションでありながら臨場感を醸成することに成功していると思う。主要な人物たちがどのような考えのもと、どのような行動をとっていたのかが、時系列で追いかけやすくなっているのも良い。特徴的なのは、日本軍の攻撃の非を問うているものではないことだろうか。戦時下という特殊事情において、ダーウィンが日本の戦略上の重要拠点であったことから、それを予見し手を打てなかったオーストラリアの明らかな準備不足を指摘しているにすぎない。どうも真珠湾攻撃に対するアメリカの論調とは違うようだ(真珠湾攻撃によるアメリカの被害の方が甚大ではあるのだが)。ダーウィン空襲は日本軍の圧倒的な勝利に終わり、余波としてリーダシップや統制の欠如の露呈、情報網の崩壊、「アデレード・リバー競馬レース」に例えられる市民らの一斉南下(都市の放棄)、そして軍も関与した略奪の横行が見られたと著者はいう。これを汚辱としてしまったがゆえに、戦禍がそのものも忘れ去られてしまったということなのだろうか。本書は、野中郁次郎他『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』の失敗の本質=あいまいな目的意識、統合的な戦略の欠如、環境変化への対応力不足、不完全なダメージコントロール・コンティンジェンシープランに符号するようだ。訳者あとがきにあるように、震災後の日本においては、教訓とすべき先例ととらえるべきなのだろう。 ブラディ・ダーウィン: もうひとつのパール・ハーバー 関連情報




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