華岡青洲の妻 (新潮文庫)
本の紹介にも、「嫁姑」がテーマであると書かれているのですが、
私は、医学の進歩に貢献するため、人の命を助けるために、
懸命にがんばった、一途な夫婦の物語であるように感じました。
姑や、姉たちの存在も、「一家でひとつの研究成果を成し遂げる」ために、
協力し合った、女性の共同体のように思えます。
夫であり中心的役割を果たす医師の青洲も、
女性たちの働きや心情を達観しているところがあり、
自分自身の成功のためにも、
また、医師として病に苦しむ女性たちを救うためにも、
高い理想に身を捧げた信念があります。
その信念に共鳴したからこそ、妻としても母としても、
研究に協力したのだと思います。
この時代に、女性が世に残す「仕事」を成し遂げるには、
男性や夫と理想を共にするしかなかったのだろうと思いますが、
それは、女性として、素晴らしい生き方のひとつだっただろうと思います。
また、夫の研究に全力で協力することは、
女性にとって、大きな生き甲斐になっただろうと思います。
私も薬学を多少学びますが、
おそらくは、「このくらいの薬の量では、死に至ることはない」と、
実験に臨む妻も、知っていたのではないでしょうか。
夫と共に、医学の発展に協力していく姿は、
西欧ではキュリー夫人の生き方にも重なります。
充実した人生を生きた、「華岡青洲の妻」だったと思います。
(華岡さんは実在の人物であり、子孫が今も、医師をしているそうです。
そのお名前が、同姓同名だという話です…)
出雲の阿国 DVD-BOX
ここに映る菊川怜が哀しいほど美しい。目がキラキラと輝き、往年の大スター岡田茉莉子の若い頃を彷彿させる。。いなくなった男の持ち物を触りながら、泣き崩れるワンシーンワンカットは、驚愕さえ覚えます。中々見れない、菊川怜の2時間ドラマも是非ソフト化を希望します。
恍惚の人 [DVD]
『銀座カンカン娘』を見た翌日に、この作品が届いた。高峰秀子の役柄のシリアスな転換振りに度肝を抜かれた。高峰が49歳の作品だから、僕の現在と同年代になる。高峰ファンに昨今、急速に転化した自分としてはレンタルでなくて、現物を購入したのは旨い買い物をしたと自得している。庭に咲く白い花に、老父の森繁がうっとりと見入る、この作品の見せ場だと思うが、この一瞬の表情こそ題名の通りの『恍惚』の瞬間なのだ、というアピールを森繁の演技に感じた。そして健常人と自認している人々には体験することの出来ない世界、味わい伺い知ることの出来ない『美』の世界が厳然として存在し、不憫と見做されている認知症の人間にこそ、つかめる事の出来る、そういう『恍惚』に浸れる世界があるということ、認知症という扱いを受ける人々の健常人への密かな、ある種の優越性というものを表現しきったシーンと感じた。老父が亡くなったあとで、老父の孫が、母の高峰に投げかけた、ひとこと「もう少し生かしておいても、よかったね」に、高峰が慄然とした表情をする、この一瞬の表情に、嫁として、実の血の繋がった息子や娘よりも、誠心誠意、老父に深い愛情を体当たりで示してきたが、おもてには表さなかったが心の深奥で抱いていた本心、それは自分自身が一番自分のなかに存在していることを恐れていた感情、人に覗かれたくない本音というものを息子にいとも造作なく見破られていたことへの驚愕、そういう感情の襞を高峰は見事に表現している。高峰の作品の随所で見られる高峰の十八番、一瞬の表情に無限の言葉を込めるという天賦の才、これがこの作品においても、ラストシーンで十全に発揮されていた。そういう高峰ファンとしては舌鼓をことさら強く打たせてくれる作品であった。
恍惚の人 (新潮文庫)
以前「非色」を読んだときもそうだったが、
この人の作品は自分の価値観や、ものの考え方に大きな影響を与える。
自分に降りかかる「介護」と、自分に訪れる「老い」の双方について
大きな不安を与える内容がシビアに描かれてはいるが、
「愛」というほどではない「救い」が作品の骨格を支えているので
絶望に陥るほどのことはなく、ただ、テーマに対する思索を深めてくれる。
娯楽として気軽に読める本ではないけれど、「高齢化社会」を語るニュースを見るより
この本を読んだ方がはるかに心に染みるので、特に若い人に読んで欲しい。
悪女について (新潮文庫 (あ-5-19))
本当の名前も、本当の親もある意味捨てた女ー鈴木君子(富小路公子)。
戦後の混乱期を才覚と悪智で巨万の富を得、TVでコメンテーターになっては多くの
崇拝者を得、最後の最後まで美しい女であることと、宝石をはじめとして美しいものに
固執した虚に満ちた人生を彼女を知る27人の語り部によって綴ったストーリーです。
彼女自身は語らない点と巨万の富を築いたプロセスが数人によって少しずつ、バラバラ
に明かされていく読者をワクワクさせる手法は圧巻でした。
「悪女について」という大胆な題名でありながら、悪女の間に天使の彼女が存在し、
娼婦の彼女と無垢な女が混在するため、最後の最後まで愉しめました。読み終わってから、
また前半に戻って悪女ぶりを読み返したほどです。
彼女自身が自分を告白することはないので、それぞれの語り部が彼女に対するそれぞれ
の思いを綴る(吐き出す)わけですが、人という複雑な多面性をうまく引き出している
と思います。彼女の苦悩は、極度の不眠症という生活習慣病だけに閉じ込められて
心情を伺うことは出来ません。幸せな一生だったのでしょうか?
実業家としての確かな才覚があっても、年齢だけは生涯嘘を突き通したところなど
可愛いものです。
また、昨今の美しい筋肉をつけたセクシーなボティへの流行とは異なり、柔らかい
体でいるため筋肉をつけないよう運動をしない努力なども、美への考察が違い
書かれた時代と現代の差を面白く思いました。
それに、手玉にとった男性より、養った男性が圧倒的に多い悪女だったようです。
それも才能ですね。
しかし、男性によって性生活においても全く異なる反応をみせるなど、大変な努力家
だと思います・・・脱帽。悪女にはなれそうにありません・・・・(笑)