浮雲 (新潮文庫)
恋愛小説の傑作といえば、なんといってもこの「浮雲」。
男と女の切れそうで切れないぐずぐずした腐れ縁が、見事に書かれている。恋愛の本質が濃密に表現されていると思う。
私にとって、「富岡」はまさに「男」、「ゆき子」はまさに「女」。
富岡のクールな感覚は、男そのものだ。それでいて芯には優しさがあるのだけれど。
最後の場面が悲しいけれどもとても好きです。
林芙美子紀行集 下駄で歩いた巴里 (岩波文庫)
1931年、『放浪記』の原稿料を得て、シベリア鉄道に乗ってパリに出発した林芙美子。まず、当時の中国、満州、ロシア途中の模様がいきいきと描かれる。視点にはぶれがない。『放浪記』のときと同じく、林芙美子の個人としての気持ちがしっかりとした土台になっている。だからこそ、時代を経ても新鮮に感じられる。林芙美子にはどこへ行っても自分であり続ける強さがある。驚くほどの楽天主義。解説の立松和平氏が言うように、これが林芙美子の魅力である。視点はパリでもロンドンでも変わらない。林芙美子はコスモポリタンである。西洋を旅した日本の知識人の多くが感じたあこがれもコンプレックスも、林芙美子には無縁である。大阪の町、尾道の町を歩くのと同じように、自然に歩く。わからないものをわかっ!たふりをしない確かさ。これも魅力である。
放浪記 (新潮文庫)
解説によると「6冊ばかりの、粗末な雑記帳に書きためてきた日記」から、任意に抜き出して発表された作品であるので、ストーリーがあるわけではない。また、第一部から第三部まであるのだが、これもその順に従って書かれた訳ではなく、同時並行的なものだから、なおさら分からない。
したがって、この本の読み方としては、ストーリーを追うのではなく、作者の置かれた状況と人間性を、極めて私的に味わうというものになるのだが、故に、作者の生き生きとした描写が浮き彫りになる。男がほしいとか、無政府主義者を自認しているとか、おっかさんとか、身売りでもしようかとか、直接的な表現にはっとする。
放浪記 [DVD]
気難しい主人公の表情が面白い。高峰秀子が熱演しているのだが、いつも、不平不満を言いたげな、ふくれっ面である。それもそのはず、大変貧乏をしてしまい、おまけに、男運も悪いときているのだから、仕方ないだろう。でも、最終的には、大成をなしとげ、貧乏から抜け出ることが出来、母親にも孝行できたのだから、良かったのではないだろうか・・・。近年、森光子主演で、お芝居にもなっているようだし、また、チャンスがあったら、観てみたいと思う。
成瀬巳喜男 THE MASTERWORKS 1 [DVD]
日本映画史上、最高の恋愛映画であり、世界に誇れる偉大な映画である。
海外の映画祭に出品していたら、カンヌグランプリ、ベネチア金獅子賞、ベルリン金熊賞のいずれかを間違いなく受賞していただろう。
この映画は小津安二郎の「東京物語」よりはるかに偉大な作品なのだ。