煤煙 (岩波文庫)
明治41年(1908年)3月21日、雑誌「青鞜」で名を馳せた才媛・平塚らいてう(当時23歳)が遺書を残して家出、その後、那須塩原の尾花峠で漱石門下生の森田草平と心中未遂のところを保護される。これが、後に「煤煙事件」と呼ばれたスキャンダルです。
当事者の森田草平がこのあらましを題材にひとつの小説を書き上げたのが本書です。主人公小島要吉、相手役の真鍋朋子をそれぞれの当事者本人になぞらえて読むと興味深いものがあります。一方、冒頭、要吉の故郷の描写などは自然主義文学的で興味深い。明治40年代にしては時に大胆な描写もあり、これが朝日新聞の新聞小説として掲載されていたとはちょっと驚きます。当時の人はどう感じたでしょうか?
漱石の「それから」の第6章にこの「煤煙」が取り上げられています。主人公代助を通じて「煤煙」についての漱石の印象が述べられていて、併せて読むとまた興味深いです。
リクエスト復刊ですので、1940年以来の版です。旧字・旧かな遣いです。それもまた味わい深いですが、一部活字の欠けている不鮮明な箇所もあり、そろそろ改版してもいいのではとも感じます。