中大兄皇子伝〈上〉 (講談社文庫)
西暦645年、中大兄皇子・中臣鎌足らによる蘇我入鹿の暗殺に始まり、天皇を中心とした律令体制が産声をあげた大化の改新。その中心となった中大兄を主人公とした作品。大王の皇子としてうまれ育った境遇、唐から戻った学者達を師とした思想的背景、そしてなにより持って生まれた資質が彼をして改革を押し進める。歴史的事実を盛り込みながら、生々しい心情を描写した臨場感あふれる小説です。中大兄皇子の周囲や自分に対する非常に客観的な分析が、立体的な人物像を浮き上がらせます。歴史に興味がなくても楽しめます。
中大兄皇子伝〈下〉 (講談社文庫)
この方の時代小説を、その舞台となった時代順に数冊読んできた。
卑弥呼・雄略天皇・聖徳太子の3作品8冊。
他の小説と違い、主人公である天智天皇の視点から書いているのが特徴的。
寝不足を恐れ、主に移動時間中にのみ読んだので一気呵成に読み終えたわけではないが、
物語にスピード感があり読み終えた後はカタルシスのようなものを感じられた。
スペースが許せば中臣鎌子(藤原鎌足)についての方が書きたかったがこちらでは割愛。魅力的な人物だった。
ただ、黒岩重吾さんの時代小説は今まで読んだものは全て、主人公が若いときは大器を感じさせるが、年老いると衰えを見せる。
特にそれが激しく見えたのが卑弥呼で、この天智天皇は一番マシに見えたがそれでもやはり気になる。老いに対し相当なマイナスイメージを持っていらっしゃったのか。
年を取ってから才能を開花させた方の小説にしてはそのあたりが面白くもあるが。
その点がどうしても気に入らず評価は星4.5個を付けたかったが、0.5というのは無いし、私の個人的な好みの問題だから星5つ。
古代史好きの方以外にも、文句無しにお勧めの1冊(上下2冊)。
天風の彩王〈下〉―藤原不比等 (講談社文庫)
(上巻から続く)不比等の運が開かれるきっかけは草壁皇太子の近臣に就けたことに
ある。彼の学識がものを言ったのだ。それはのちに権力を手中にすることになる鵜野
讚良皇后(持統天皇)に接近できることを意味する。不比等のたくみな人心掌握術に
よって皇后の寵愛を受けることに成功すると、彼女のためにその卓越した能力を発揮
していく。まず皇后の孫・軽皇子(文武天皇)を皇位に就ける政界工作に成功すると、
軽皇子からも信頼を勝ち取り、皇子に娘を入内させることにも成功。文武帝が若くして
崩御すると、文武の子・首皇子(聖武天皇)を成人後に即位させるために、文武の母・
阿倍皇女(元明天皇)を擁立する。そして首皇子にも娘・光明子を入内させるのである。
まさに抜け目のない男・不比等。権力をほしいままにできる環境づくりに余念がない。
もちろん単に権力の亡者としての側面だけではなく、律令国家の実現のために大宝
律令の完成にも尽力していることも触れているし、これまでのこわもての印象を変えて
くれる"人間・不比等"として描かれている。彼の出自について"ある噂"があることは
古代史好きならご存知のはず。彼はそのことに悩みつつ、それを逆用して栄達の足
がかりにしていくところが見所だ。古代の巨人のサクセス・ストーリーがここにあった。