百年小説
近代文学で有名作家の代表作品(短編)が一冊にまとめてくれたものがないか。
その願いをかなえてくれるのが本書である。1330頁に51編の名作がほぼ丸本の形で収載されている。活字が大きく、総ルビなので読み易い。
中島敦の『山月記』、太宰治の『富嶽百景』などは言うまでもなく、ややなじみの薄い坂口安吾の「波子」、梶井基次郎の「闇の絵巻」など掘り出しものも入っていて、楽しめる。
紅露逍鴎と言われた明治の文豪作品からプロレタリア文学・私小説をも含め、最後は昭和23年情死した太宰治まで広く作品を網羅して豪華な一書となっている。
黴 (岩波文庫)
大学の社会人講座で昨年からお世話になっている先生が、好きな作家として挙げられたのが徳田秋声でした。
それでさっそく読んでみたのですが・・・
旧仮名遣い、知らない漢字、知らない熟語・・・実はとても読むのに苦労しました。ただ、1文1文、ゆっくり時間をかけて読まなければならないことが「苦痛でない」という不思議な魅力がありました。
なぜだろう・・・
おそらくは、作者自身もゆっくり時間をかけて書いた作品であること、だから言葉そのものがとても丁寧に扱われていることが感覚的に伝わってくるからだろうと思います。
内容ですか?知らぬ間に、下宿にいる娘さんといい仲になって子どもができちゃったり、なのに「まあなんとかなるから」とあっけらかんとしている娘の母親がいたり、引越しした家が実は殺人事件のあった家だったり・・・と、冷静に考えたらかなり驚きの日常が、淡々と書かれています。でも美化もせず、説教臭さもなく、そこがまたよろしいかと思いました。