金正日の料理人―間近で見た権力者の素顔
金正日についての本が最近、多く出版されているが、本書に勝るものはない。
著者は金正日から「喜ばせ組」関係とおぼしき女性を紹介され、そして結婚した。ベンツをプレゼントされたこともある。一時期は、ことあるごとにお呼びがあった。高級幹部扱いである。一介の寿司職人が、金正日の側近にまでなったのである。
著者は極めて自然体で、きばらずに、忠実に、あったことを綴っているようだ。
金正日が普段、何を食べていたのか。部下には何をプレゼントしていたのか。金正日の息子が乗っていた車は何だったのか……。書かれていることは、どれも驚くことばかり。
たとえば北朝鮮に高速道路があることをご存じですか。実はあるのです。ただ、ほとんど将軍様一族と高級幹部の車しか通らない。ものすごく空いている高速道路だ。その道路を外国製の高級車に乗って超スピードで乗り回す将軍様一行。時折、何も通らない道路を横断する人が見受けられるが、その間を一行の車は猛スピードで駆け抜けていく。「危なくないか」と尋ねられた将軍様は「高速道路では引かれる人間のほうが悪い」と言い放っていたという。
今売れているマンガよりも、本書のほうが迫力があるし、具体的な事実が書かれている。読み比べてみれば分かると思う。著者がいつか亡き者にされてしまうのでは、と心配してしまうほどである。なぜ、この本がベストセラーにならないのか不思議なくらいである。