マンガ 金正恩入門-北朝鮮 若き独裁者の素顔
本書は,気楽に読めるマンガの形をとってはいるが,著者,監修者ともに,北朝鮮に関する最高の権威であるらしい。北朝鮮の権力構造や金正恩の家系なども紹介されている。
長男の金正男が,当初後継者として育てられながら,やがて,それから外され,代わりに,異母弟の金正恩が後継者に選ばれていく過程が,大変分かりやすく解説されている。
この書によれば,長男の金正男は,北朝鮮がこのままではだめになると思い,改革しようとしたが,その考え方が金正日の逆鱗に触れ,逆に,父親の考えを踏襲する金正恩が後継者に選ばれていった。
したがって,金正恩体制化では,日本と北朝鮮との関係が,改善されることは,当面は期待薄のようである。
父・金正日と私 金正男独占告白
驚くべきは金正男さんの均整の取れた世界観だ。それは西側諸国のそれと違いなく、冷静に母国の現状と取るべき近未来像を示している。金正男さんが東京ディズニーランドにゆくため、偽造パスポートを所持し国外退去になった件は日本人の記憶に新しいが、その事実が父金正日の失望を招き政権から遠ざけられた訳ではなく、開放改革が母国を救う道であるという信念の下、父である金正日書記長に進言した事が結果として権力の中枢から遠ざけられたと本書は分析する。
読み始めは、金正男さんのそのリベラルな姿勢が北朝鮮という特殊な国家形態とあまりに隔たりがあるゆえに驚愕することが多いが、読み進めるに従い自分達の文化圏の人間であるような錯覚に陥り、読み始めの驚愕は次第に消えてゆく。
この金正男さんが北朝鮮の指導者として立つ事が、北朝鮮の未来の為にも、北東アジアの為にも、そして世界の為にも最も幸福であると思わされる。しかし残念なことに、本人にはその意志が無いし、母国から求められてもいない。金正男さんはあくまでも大らかで人懐こく、また賢明で冷静だ。友人を多く引き寄せるその性質こそ、これからの北朝鮮に必須なリーダーであることを思うにつけ、権力の中枢から外れていったその境遇の不運を北朝鮮の未来に重ねてしまう。