スーパーベスト 水原弘
99年発売の『全曲集』から「雪国」「素晴らしい人生」「お嫁に行くんだね」「港はまだ遠い」(これがラスト・シングル)の4曲を省き、曲順を入れ替え再構成したアルバム。ジャケット写真は、シングル「君こそわが命」の時に使用されたものと同じ、青を背景にしたおミズの横顔。収録曲は、黒い花びら/君こそわが命/黒い落葉/愛の渚/慟哭のブルース/へんな女/女の爪あと/遠くへ行きたい/恋のカクテル(モノラル)/黄昏のビギン/好きと云ってよ/マイ・ウェイ、の12曲。『全曲集』同様、「黒い花びら」など初期の楽曲は、ステレオで―「君こそわが命」ヒット後に―再録音されたテイクで収録。
今のオレと同じ年で亡くなった、ということもあって、近頃やけにおミズの歌が聴きたくなり、なかば衝動買いのように購入したけれど、これは大満足。12時間ものレコーディングを経て完成した伝説のカムバック曲「君こそわが命」などはもちろんだが、今回個人的に気に入ったのは、ボッサ歌謡、というだけでは表現しきれない深くてコクのある世界が展開される「好きと云ってよ」。大人のひとりGS「愛の渚」、聴いていると子どもの頃の思い出もよみがえって来るコミカルな“珍名曲”「へんな女」の2曲を作ったハマクラさんの天才ぶりにも、改めて敬服する次第(鼻歌みたいなノリで、肩の力の抜けた名曲を量産した彼は、やはり偉大だ)。そして、カラオケの席では蛇蝎の如く嫌われている「マイ・ウェイ」も、うまい人がしっかり歌えばこれだけのものになるんだ、と実感。オレの大好きなトム・ジョーンズ版に匹敵する出来だ。最高(おミズが和製トム・ジョーンズだというより、トムさんがイギリスのおミズなのだ!)。
歌詞カードの作者名のところに、編曲者のみ表示されていないなどわずかに不満もあるが、☆は5つ。
この星は、唯一無二である、おミズの歌声に捧げる。
全曲集
ロカビリー・シンガーとしてステージ・デビュー、中村八大の「黒い花びら」で大ブレイクしたのはご承知の通り。改めて聴いてみると、「黒い落葉」「恋のカクテル」などの黒っぽいヴォーカルなど、和製R&Bシンガーの草分けとして、村松友示見による評伝とは切り離してみても、十分に心に来ます。レコードでは、ロカビリーより「カチート」とかのラテンの方を積極的に取り上げていますが、その流れで作られたであろう「黄昏のビギン」も、またはまっていますね。また浜口庫之介作曲の一人GS「愛の渚」やNHKあなたのメロディーから生まれたソフトロック・サウンド「お嫁に行くんだね」では、トム・ジョーンズ・マナーのヴォーカルが聴けて、これまたすばらしい! 和製トム・ジョーンズは、松崎しげるではなかったのだ! ムード歌謡という狭い枠に押し込めて置くにはもったいない歌であります。
黒い花びら
私にはまだまだ空白の部分の多い人、という読後感でした。
さらっと全体を流しているのは、読んでてスムースで面白かったです。
ただ、もっと執拗に取材して本にして欲しかったと正直思います。
酒場で長時間、何を話していたんだろう?
そんな事を更に思ってしまいました。
黒い花びら (河出文庫)
私は「黒い花びら」も「君こそわが命」も知ってはいるし
水原弘が歌う姿をテレビでも見てはいるけれど
いかんせん幼すぎて、ただ「目つきの怖いお兄さん」
という印象しかなかった。
その水原弘の本を何故読みたいと思ったかというと
氷川きよしくんが「黒い花びら」をアルバムに収録し
毎日のように聞いているうちに、こんなすごい歌だったの?
と感じ始めていたから。そして不遇の時代から
「君こそわがいのち」への奇跡の復活の仕掛け人が
きよしくんの所属事務所の長良じゅんさんと聞いていて
どんなドラマがあったのか知りたかったからだ。
作者は水原弘と同じ時代を生きているので、とても熱い思いがあり
物見遊山で手に取った私のような読者でもぐいぐいと
ひきこまれ一気に読破してしまった。
日本人が活き活きとし、侠気、人情がまだ元気な時代
だったからこそ誕生した歌手という印象をもった。
あのテレビ画面を通してみた凄みのような意味も理解した。
名曲といわれる曲には様々なドラマがあるだろうが
歌以上にドラマティックな人生を生きた水原弘を思うと
なんとも切ない気持ちになる。歌い継がれる名曲を
持つことができたことは歌手としては幸せなことだろう
ただ歌い継ぐ歌手は曲の背景まで踏み込まなければ
説得力のある歌唱はできまい。
きよしくんの歌声で蘇った「黒い花びら」彼なりに
「水原弘像」を学んだ上での収録だったのだろう。
でもきよしくんへ水原弘の生きた時代の蔭りは感じない。
彼なりに昇華し、新しい命をあの曲に吹き込んだからこそ
平成の「黒い花びら」が耳について離れなかったのだと納得できた。
また長良じゅんさんがよくインタビューでお話されている
「同じ匂い」「匂いで動く」の意味も少し分かった気がした。
ネット全盛の現代で人と人との関係が希薄になっている今こそ
読むべき本かもしれない。