サマータイム (偕成社コレクション―四季のピアニストたち)
小学五年生の伊山進と一つ年上の姉の佳奈。進より二つ年上で、ピアニストの母親と二人で暮らしているどこか大人びた浅尾広一。夏休みの最後の日、三人で一緒に食べた塩辛いミント・ゼリーの思い出。喧嘩したまま別れた佳奈と広一。そして六年後、大学生になった広一との再会(「サマータイム」)。その数年前、進の自転車と佳奈のピアノが初めて家にやってきた頃、まだ幼女の面影を宿す佳奈のある日の出来事(「五月の道しるべ」)。佳奈と別れてから三年後、やがて新しい父親となる男と広一との出会い(「九月の雨」)。十四歳になった佳奈と調律師・センダくんとの、氷の鍵盤が奏でる「絶対零度の音」がとりもつ「義理でもないけど、LOVEでもない」関係(「ホワイト・ピアノ」)。四季それぞれのイメージに彩られた四つのショート・ストーリーが綴る、思春期というにはまだ早い、あの特別な時間だけがもつ壊れ物のようなつかのまの煌めき。自転車とピアノ。二つのマイ・フェイヴァリット・シングス(私のお気に入り)に託された、切ないほどピュアな世界。何か大切なものが、ひっそりと編み込まれている。
認知療法全技法ガイド―対話とツールによる臨床実践のために
これほど多くの技法が紹介された認知行動療法関係の本は、邦訳された文献中、これだけではないでしょうか。技法を臨床で使う際に役立つツールも付いていて、とにかく実践的な本です。クライアントのことを考えながらこの本をパラパラめくっているうちに、そのクライアントへの介入のアイディアを思いついてしまうこともしばしば。
ただし、認知行動療法の基本(セッションの構造化の仕方など)については書かれておらず、初心者向けではありません。初心者は、伊藤絵美先生の「初級ワークショップ」など入門書を何冊か読んでからでないと、使いこなせないでしょう。その意味で、中級以上対象の本です。
また、著者本人が序章で述べているように、認知行動療法のうち認知的側面により焦点を当てた内容となっており、行動的側面(たとえば、問題解決技法など)にはあまり触れられておらず、その点が残念です。行動的側面に焦点を当てた技法について、同様の本をもう1冊書いてもらいたいところですが…。