麻耶雄嵩の作品は、恐らく極端にその好みが分かれるだろう。その理由と言うのも…彼の描く「ミステリ」は真っ当な「ミステリ作品」とは大きく異なるからだ。
大きく展開する事件とその中にある正に「闇」とも言うべき人の暗部。陰湿に複雑に絡み合った人間関係とその下に見え隠れする陰鬱な心理…。麻耶雄嵩の描く作品は滑稽な描写で多少味付けを変えているものの基本的にそうした深い「闇」に満ちている。
だから、彼の描く作品は恐らく極端に好みが分かれる。けれど「麻耶雄嵩作品が好みが分かれる」理由は、決してそれだけではない。彼の作品が好みが分かれるのは…この一点。読み手がそれまでに必死に推理して自分なりに犯人を導き出そうとしていた展開を根っこから壊してしまう様な「カタストロフィ」が、麻耶雄嵩作品の終幕には存在しているのだ。
だから、好みが分かれる。だからミステリ作品としては異質である。けれど…その「カタストロフィ」の崩壊感こそが麻耶雄嵩作品の最大の味でもあると私は思う。特にその感覚を味わう事が出来るのは同作者の「夏と冬の奏鳴曲」ではあるが、読後の後味を考えると、此方の方が人には勧めやすいと思う。この「翼ある闇」「名探偵 木更津悠也」「メルカトルと美袋のための殺人」を読んでみて、作品が口に合う様なら…本格的に、麻耶雄嵩作品の世界観にはまってみるのも良いかもしれない。
「死人を起こす」「九州旅行」「収束」「答えのない絵本」「密室荘」収録。
メルカトルシリーズのうち2009〜10年と最近発表された作品4編と、書き下ろし短編が1編(「密室荘」)という構成。
著者の言葉からもわかる通り「銘」探偵メルカトル鮎は無謬の探偵としておかれた存在であって、その原理上彼が語る論理が誤りであることはない。だからこそ収録されている5編の結末のいずれもに読んでいる側は困惑させられることになる。なかでも後半3つ「収束」「答えのない絵本」「密室荘」はとても著者(メルカトル?)の性向が良く理解できるのでは。本格ミステリの本のレビューとしてあまり詳しくは話せないけれど「収束」は普通に1年に1度あるかないかの作品で、おすすめしたい。「答えのない絵本」「密室荘」は読んでいて途方に暮れてしまった。前作『メルカトルと美袋のための殺人』収録「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」を初めて読んだ時の困惑感。こちらは問題作ではあったが再読するほどに良くできた作品でしたがこちらは果たして・・・?少し時間を空けてもう一度精読するつもり。
相変わらず初めての方にはすすめづらい作風ですが、著者の本格を読み続けてきた読者の方には文句なくおすすめできる出来になっています。
メルカトル。短編小説に向く探偵、と自ら豪語するメルカトル。夏と冬のソナタであの演出は、やっぱり出てきた瞬間にすべての謎を解いてしまうからなんですな。そんなわけで、短編集です。
しょっぱなの『遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる』がなんといっても傑作。こういうのを期待してしまう、麻耶さんにはやっぱり。
メルカトルの鬼畜っぷりと、それに振り回される美袋の狂った関係がダークな世界観につつまれて、なんというか短編集のくせに一種異様な空気に包まれている。傑作。
文章もかなり読みやすくなっているので、平気だと思う。
「嵐の山荘(館)」ものです。いつ読んでも、これは本格ミステリファンには堪りません。
ミステリーファンなら誰でも、読み進めていくうちに違和感を感じると思います。真相も、まぁそうか、という感じ。
でも、このファイアフライ館の設定が素晴らしく、加賀螢司の過去も盛り上げます。ラストは驚愕とまではいきませんが、当時のミステリランキングでは上位に食い込んだと思いますし、ミステリとしては十分楽しめます。
面白かったの一言。麻耶雄嵩は読者を裏切らない。
不思議な世界観に引き込まれた頃には貴族探偵の虜になっていることうけあいだ。
人を食ったようなキャラクターたちは魅力にあふれている。
気に入った脇役が多くいて、困ったほどだ。
テレビドラマにも出来そうだが、珠玉の本格短編集なだけに難しいかも。
続編を強く希望したい。
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