本書は、水原弘が駆け抜けた時代に掲載された週刊誌の記事や関係者の声を拾い、丹念にこの"酔いどれ歌手"の人生を追っている。ページをめくりながら読者の頭によぎるのは、「お酒を少し控えたらこんなみじめな死に方しなくてよかったのに」、「見栄張りすぎて金を浪費して」といった、呆れにも近い思いだろう。だが著者は、水原が周辺の人々から拍手を送られながら道徳的に生きるような「昼の論理」ではなく、「歌うこと」と「破滅へ向けての生活無頼」に生涯のほとんどを費やす「夜の論理」を生き抜いたのだと説明し、「昼の論理」の側から何を言っても「夜の論理を生きた水原弘には通用しない」という。 「水原弘は、自分のステージの上における"無頼"のイメージに、ステージを降りた後も責任をとった芸人だった……(中略)さまざまな歌手や役者がいるが、ステージやスクリーンでは恰好よく"無頼"のイメージをただよわせながら、そのフィクションの衣を脱げばほとんどサラリーマン感覚、世間的な気遣いをめぐらして蓄財に励んでいるタイプがほとんどだろう。水原弘は、それに反発して、ステージ上での気取った"無頼"を、日常の中でも演じて見せつづけた。」 関係者は言う。「水原弘の時代にも、そんなタイプは数えるほどしかいなかったけど、今はもう絶滅しましたね……」と。 著者は水原弘の軌跡を辿りながら、"無頼"の凄味を実感できたのがうれしかったと「あとがき」で書いている。
それはまさに自らが若かった時代の風の音のように、心地よく響く、魂の音楽、 音の世界がタイムマシンの様に、私たちの心を、あの懐かしい時代に引き戻します。 あの時代を生きた証として! 私はこのメディアを皆さんにお勧めします。
昭和53年に42歳という若さで他界してしまった水原弘。 当時5歳だった私はそんな事を知らず、彼を知ったのは中学生の時に聞いていたラジオから流れてきた「黒い花びら」だった。 「なんて、切なく甘く良い歌なんだろう。」 当時水原弘のCDを見つける事が出来ず、そのまま歳月が過ぎた。 最近、村松友視氏の評伝を書店で見かけ、読んだのをきっかけに再び水原弘が聞きたくなった。でこのCDを購入した。 感想は「上手い!」の一言。 「黒い花びら」以降ヒット曲に恵まれなかった状況を打破する為であろうか、様々な路線の曲を歌っていて暗中模索したと見受けられるが、逆に現代になって聞いてみると、その様々なジャンルの歌を全て見事に歌いこなしている事や、歌の中に見える歌手としての色々な性格が感じられて非常にバラエティーに富んだオールマイティーな歌手である事に驚かされる。 波瀾万丈な人生を送っただけに優しく甘く、そして大きいスケールで歌う「マイ・ウェイ」は絶品。 もっと生きていればもっと可能性があった様に思う。できればリアルタイムで聞いてみたかった。 ホントに42歳で亡くなっているのが残念だ。
99年発売の『全曲集』から「雪国」「素晴らしい人生」「お嫁に行くんだね」「港はまだ遠い」(これがラスト・シングル)の4曲を省き、曲順を入れ替え再構成したアルバム。ジャケット写真は、シングル「君こそわが命」の時に使用されたものと同じ、青を背景にしたおミズの横顔。収録曲は、黒い花びら/君こそわが命/黒い落葉/愛の渚/慟哭のブルース/へんな女/女の爪あと/遠くへ行きたい/恋のカクテル(モノラル)/黄昏のビギン/好きと云ってよ/マイ・ウェイ、の12曲。『全曲集』同様、「黒い花びら」など初期の楽曲は、ステレオで―「君こそわが命」ヒット後に―再録音されたテイクで収録。
今のオレと同じ年で亡くなった、ということもあって、近頃やけにおミズの歌が聴きたくなり、なかば衝動買いのように購入したけれど、これは大満足。12時間ものレコーディングを経て完成した伝説のカムバック曲「君こそわが命」などはもちろんだが、今回個人的に気に入ったのは、ボッサ歌謡、というだけでは表現しきれない深くてコクのある世界が展開される「好きと云ってよ」。大人のひとりGS「愛の渚」、聴いていると子どもの頃の思い出もよみがえって来るコミカルな“珍名曲”「へんな女」の2曲を作ったハマクラさんの天才ぶりにも、改めて敬服する次第(鼻歌みたいなノリで、肩の力の抜けた名曲を量産した彼は、やはり偉大だ)。そして、カラオケの席では蛇蝎の如く嫌われている「マイ・ウェイ」も、うまい人がしっかり歌えばこれだけのものになるんだ、と実感。オレの大好きなトム・ジョーンズ版に匹敵する出来だ。最高(おミズが和製トム・ジョーンズだというより、トムさんがイギリスのおミズなのだ!)。
歌詞カードの作者名のところに、編曲者のみ表示されていないなどわずかに不満もあるが、☆は5つ。
この星は、唯一無二である、おミズの歌声に捧げる。
ちあきなおみって言うと一般的には“「喝采」の人”“コロッケのモノマネの人”ってことで括られてしまうんだろうけど(それも今の若い人はわかんないか)、僕はどっちかって言えば、「X+Y=LOVE」とか「四つのお願い」のような男女のコミカルな関係を描いた、大人の洒落たラブソングが好きである。 ♪Xそれはあーなた、Yそれはわーたし で始まる「X+Y=LOVE」は、多分X染色体、Y染色体からアイデアを得てるんだろうけど、だとすればX=わたし(女)、Y=あなた(男)だよなぁという気もする。この曲を聴くとWXYの文字を使って女体を落書きした小学生の頃の思い出がオーバーラップしたりもする。当時は大人と子供のあいだに今よりも明確な区分があったし、“大人だけの歌”ってのが確実に存在していた。 ちあきなおみだけじゃなくて水原弘の「へんな女」とかね。水原弘もちあきなおみと一緒で「黒い花びら」で括られちゃってるのが悲しい。日吉ミミの「男と女のお話」とか初期の研ナオコ(例えば「うわさの男」)なんかも“大人の洒落たラブソング”だと思う。まあ、昭和40年代は男女の交わりも今ほどドライじゃなかったんだろうな。だからコミックソング風に茶化しながら、お願いを託したり、方程式を夢みたりするっていう。 このCDにはタイトルだけでも時めくような、歌謡曲のエキスが存分に詰め込まれている。まさに必聴「おとなの歌謡曲」である。
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