いいですね、この世界、好きです。 どちらの作品もストーリーが良いです。 失楽園、愛の流刑地ときたら次はこれでしょう!
著者の渡辺さんは、1933年生まれ、札幌医大出身の整形外科医です。そんな渡辺さんの、医学、医療に関する初期短編が3冊刊行される事になりました。本書はその第一弾です。収録作品は、1:優しみの罠 2:背中の貌 3:球菌を追え 4:夜の声 5:胎児殺し 6:点滴 7:白き手の哀しみ の7作で、1967年〜1973年に各種雑誌に掲載されたものです。 1:胃がんノイローゼに陥った(陥らされた?)男とその女房の物語で、最後にツイストが利かせてあります。松本清張風の短編のような感じがします。 2:ふとしたことがきっかけで、深い関係になる男と女の物語です。女には自殺未遂の過去があり、女の底知れぬ恐怖、深遠が描かれていますが、その過去を凝視する男も怖い! 3:妻の不貞を扱った物語ですが、知らないでいるというのも1つの方法だし、まあ嘘も方便といいますから・・・ 4:全編、殆ど会話で成り立っています。最後にツイストを効かせてほしかったなあ!! 5:妊娠8ヶ月の21歳の女性の中絶を巡る医師と看護婦長の物語。生半可な正義感が通用しない大人の世界を描いています。 6:輸血を止めると死を待つしかない患者の家族と医師の物語です。出来ない事を考えるよりは、実行可能な総ての人が幸せを感じる方法を採ることも必要です。嘘も方便ですから・・・ 7:癌患者の死を見取った新米看護師の物語です。死に面しての男の欲望、本能が描かれていています。 総てが医療関係の短編ではないように思いますが、男と女の関係、人間のあり方が描かれていて面白く読ませてもらいました。なお、巻末に渡辺淳一さんの特別インタヴューが掲載されていて、初恋の人、加藤純子さんとの出会い、そして、別れが描かれています。私は、この話を最も興味深かく読ませてもらいました。渡辺さんのある意味原点のような気がします・・・蛇足です。
タイトルが印象的で惹かれるものがある。時代の空気を的確に読んだテーマ設定もさすが。
前半の主人公の定年後の孤独や無力感から夫婦仲も悪くなって行く描写はなかなか良い。主人公の融通の効かなさと妻の身勝手さの描写もリアルだ。
しかし,お得意の恋愛まがいの話が中心となる後半はちょっとまとめ方が安易ではないか。お手軽ハッピーエンドになってしまったのが残念。もっと定年後の男の孤独や行き場のなさの問題を掘り下げられなかったか。現実では問題はもっと深刻だろう。主人公はやがてどう老いて行くのか,夫婦はどうなって行くのか,ややネガティブ寄りのシナリオを描いた方が価値があっただろう。
いろいろ酷評されていますが、これらの批評をどれくらいの年代の方が書かれたかわかりませんが、いまの若い人でKYなどとのたまわっている人が多いのにガッカリさせられます。世の中は競争社会、生き延びていくためには鈍感な部分がないと、生きていけません。企業を含めた組織で働くということは、自分や自分の家族が経済的にも精神的にも幸せにするための道具でしょう。その企業や渡辺先生のような医師、あらゆる組織社会では鈍感でなくては負けることになりますよ。この本は渡辺先生が自分の人生を振り返って、これからの若者に警鐘を鳴らしている本です。もちろん、当然ながら企業などの組織社会と家庭や良好な友人関係を維持するためにはKYは大切です。つまり企業社会は友達社会とは別にすべきです。いまは就職超氷河期ですが、その原因のひとつに大学進学率が50%を超えるような状況があることは誰でも知っているでしょう。皆が大学卒業者として平等だと誤解して、全員が大企業を目指すから就職にあぶれてしまうんです。例えば野球選手、囲碁、将棋、マラソンなど運動選手等々、生まれつきの能力の違いがあるんでしょう。大学卒業者も同じであって、誰もが平等に能力をもっているわけでは決してありません。大切なことは、自分の能力を見極めて、その能力なりにベストを尽くすことが人生を幸せにしてくれます。誰もが松井選手のようにはなれないでしょう?いいかげんに島国にいれば安全・安心でチンマリおさまっている根性を捨てて、もっと能力を磨いて世界との競争に負けないようにしてもらいたいものです。皆さんの批評には、ほんとうにこのままで日本は大丈夫か!と思わされました。
研修医、医療行政に携わる人、命の尊さ、儚さ、人の弱さ、克服しようとする力、いたわり、生きたいと思うこころ、助かってほしいと願う祈り、助けようと思う勇気、強くなりたいという情念そして、敬愛の心を再認識したい人は是非、見てね
|