破顔
『破顔』とは、いいネーミングです。黒を基調とした装丁も悪くないし、モノクロ写真もいい。中身は日経夕刊の随筆欄「プロムナード」に週一で掲載された小文25篇。
「たかだか七日ほどの間に、こころをよぎった由無いことを、ささやかな上機嫌にくるんでお話しする」と、後書きにありますが、私は著者長塚京三氏に共感するというより、新鮮な驚き(むしろ脅威の眼)を以って、全篇を一度に読んでしまいました。
内容を紹介するのは控えますが、本の題名と同じ「破顔」と「手のひら大」「甘えどき」などは、印象深く、いちいち腑に落ちるというか、本当にそうだなぁと感じました。少々むずかしいところも彼らしく、実に「おヌシ、デキルな」で、団塊近傍世代の読者には特に効果的かと。
『寒山拾得図』の、幽暗の中で不気味に”破顔大笑”する寒山と拾得の表情に似たアクの強い怪異さ加減もほどよく、俳優 長塚京三の破顔(歯顔?)は、したたかで且つ温かい。
天城越え [DVD]
「砂の器」に通ずる事件を追う刑事の執念をベースに、迷宮入りの殺人事件にまつわる娼婦と少年の出会いと別れを描いたサスペンスの傑作。原作は短編集に収録されている一篇。
この作品の魅力は何と言っても田中裕子の妖艶さ、女性としての優しさを極めた演技だろう。殺人犯の少年の代わりに逮捕され送還される際に、野次馬の中の少年と対峙するシーン。何度か繰り返される彼女のカット、無言のセリフ(初めて観た時はたぶん「さようなら」と言ったのだろうと思った)のシークエンスは幻想的だ。じめじめとした暑さの中で(過去のシーンも現在のシーンも)、事件を追い続ける老刑事の渡瀬恒彦も好演。全編通して、曲者の脇役たちがコメディタッチな演技を見せていて、そのシーンが記憶に残るくらい印象的。坂上二郎、柄本明、石橋蓮司と樹木樹林の喧嘩ばかりしている夫婦などなど。
絵の中のぼくの村 [VHS]
老若男女を問わず、万人に観て欲しい珠玉の名作です。簡略に例えるなら、これはまるでアニメの『トトロ』の世界の実写版。古き良き時代の田舎の薫り立つような深い自然の中で、元気いっぱいに育つ悪戯好きの双子の兄弟。厳しくも温かな愛情をいっぱいに注いで、我が子と教え子達を熱心に教育する学校教員の母親。まっすぐで、ひたむきで、美しい心の持ち主達が、痛快に、ときにもの悲しく、ねじれた大人の社会を見事に描き出しています。
「現代っ子がこういう子供時代を送れる自然環境が戻ってきたらいいのに。子供をこういう風に教育できる親が、もっと増えたらいいのに。そうしたら、未来は良いほうに向うのではないか」と思うと、ひとりでも多くの方にこの映画を観ていただきたいです。
NHK大河ドラマ 篤姫 完全版 第壱集 [DVD]
作品としては、自分の中では今までの大河の中で最高です。
唯一の不満は、これだけの値段を取っておきながら、画質の悪い通常のDVDでしか発売していないことです。
同じものが台湾のライセンス版で全話分3000円以下で買えることを知って、残りはそちらにしました。
これだけの装丁と内容物と値段だったら、オリジナルの高画質であるべきです。
なぜ出さないの?この作品を作った人々にとっても不本意だと思います。
官僚たちの夏 [DVD]
悲しい・・・。
先日衆議院選挙が行われ民主党が勝利し、約50年続いた自民党政権が終わった。
この選挙の関心は高く、投票率も高かった。
「これからの日本はきっと変わる」とこの結果をみて思ったのだが、本作「官僚たちの夏」の視聴率を見ると疑問に思えてくる。
本作は日本の底力や日本人が日本人でいられれることへの誇りを持たせてくれるメッセージが発せられている。
その一方、政治家や政府への痛烈な批判も込められている。
「経済発展で生まれた一番のひずみは日本人の『精神』ではないでしょうか?」「日本人が日本人であることの誇りを持てる国造りをしなければいけない」
毎回ドラマが終わると、「今自分たちに求められていることはなんだろう?」「今の日本は本当に『豊か』といえるのだろうか?」など、さまざまなことを考えさせられた。
今、日本人が考えなければいけないことが多く詰まっているドラマである。
このドラマを見てすべての人は奮起しなければいけないのに、平均視聴率一桁とは、本当に悲しくなってくる。
今回の選挙で見られた盛り上がりはしょせん一時のことだったということだろうか?
「良い国造り」をしていくためには政治家だけでなく、大衆も含めたすべて国民で考えなければいけないことだ。
そのことをこのドラマを見て学ばされた。
放送期間中見ていない人はDVDになったらレンタルでもいいので見てほしい。
そして考えてほしい。
真の意味での『豊かな国』を・・・。