王昭君 (講談社文庫)
歴史には一行の記録のみが残された王昭君。
漢の後宮から匈奴の地へと嫁がされた女性の悲話として有名である。
しかしこの作品では、自らの強い意志と好奇心で果てしない草原にまで飛び出してしまった少女の話として描かれている。
故郷で平凡な一生を送るのが嫌で都に出て、たまたま後宮に入ったもののそこの生活にも飽きてしまった王昭君。たいていの人は蛮人の住む辺境と思っていた匈奴へ送られることになったが、彼女はそれを自由への道として喜んで受け入れた。匈奴の王の妃となり、草原の暮らしにも慣れ、西域の習慣にしたがって王の死後はその息子の妃となってという半生を王昭君の目を通しておっていく。
赤壁と違って女性が主人公のためか、心理描写に違和感を感じることが少なかった。若さゆえの好奇心や愛、そして後半生になって感じる哀惜の情。両親への感情が少ないとはいえ、少女が大人になっていく心境の変化は出せていたのではないかと思う。最後の画家のエピソードはなくてもいいのではと思ったけれど、全体的にもよくまとまっていた。