猛き箱舟(下) (集英社文庫)
海外に進出した日本企業の守護神、灰色熊(グリズリー)と呼ばれる男、隠岐浩蔵。彼に憧れた主人公香坂正次は隠岐に近づこうとする。やがて認められた香坂は隠岐たちと共に、モロッコの小さな鉱山をゲリラから守る任務に就く・・・・・・。
様々な船戸作品で見受けられる「パターン」の最もよい部分を上手く合わせています。例えば、能力のあまり高くない主人公(語り手)と超優秀な登場人物の組み合わせは『山猫の夏』(や後の作品である蝦夷地別件)を思わせます。本作は香坂が成長していく様がそこに加わってさらに面白くなっています。どこかに立て篭もって敵と戦うというシチュエーションは『伝説なき地』(その他、たくさんあると思う)で使われています。
「!」を多用する人物、呪術的な言葉を吐く人物、ロードムービー的な物語展開など、船戸作品で面白いと思える、設定やら構造物の断片が多く見られます(それまでの集大成的な構造のものなので船戸作品の代表作といえる)。そのためアフリカの場面はかなりの盛り上がりを見せ、はっきり言ってこの部分だけなら傑作です。
また本作はちょこちょこ謎を頻出させ、読む側を飽きさせない工夫がしてあります。
しかし、国内でのパートが弱いです、というかアフリカのテンションが高い分、国内でそれを維持するようなストーリー展開を考えるのはかなり難しいのと、船戸与一には本質的に東京を舞台とする小説はちょっと・・・と思われます(もう書いてるかもしれないけど)。
台詞も少し浮いています。幾つかの台詞に笑いました(作者にその意図はない)。
国外だけにしておけばよかったのに。
でもそれを差し引いても、傑作でした。
猛き箱舟(上) (集英社文庫)
船戸与一の作品はどれも面白い。中でも私が興奮して読んだのがこの「猛き箱舟」である。冒頭、いきなり緊迫したシーンに始まり、徐々に過去が語られていく。舞台は日本からアフリカへ、そしてまた日本へと、男が成長していくさまが描かれる。最後は男の執念の凄まじさに身が震える思いであった。 まだ読んでない人、絶対のオススメ本です。
蝦夷地別件 上 (小学館文庫)
さすがに船戸与一、最初から中盤まではあまりの面白さに止まりません。
かなりの長編ですが、キャラクターメイクと構成の素晴らしには脱帽です。最高です!
しかし、どうしてこの人はいつもラストが現実離れするのでしょうか、わかりません。
もったいないの一言です。滅茶苦茶にしてます。それがこの作者の限界でしょうか。
前半の面白さががラストまでもてば、この作品は必ずなんらかの賞を受賞していたでしょうに、ホントもったいないです。
船戸ハードボイルドの最高傑作は、やはり「山猫の夏」。
これを越える作品を作るのはやはり難しい、ということでしょうか。