花の生涯〈下〉 (祥伝社文庫)
記念すべき大河ドラマ第1回 原作。
埋木舎での井伊直弼と長野主膳の出会いから、安政の大獄を経て、桜田門外の変へ。どちらかと言うと、悪役として認知されている直弼を、日本のため、敢えて憎まれ役に徹するヒーローとして描いている。もっとも、安政の大獄に、直弼が大義を明確に打ち出すことは、ちと苦しいんだけれど。
主人公直弼より、直弼、主膳を翻弄し、間諜として活躍する村上たかの妖婦っぷりが印象的。嫉妬に苛まれ、異常な行動に奔る たかの夫 多田一郎、直弼の側室 里和など、登場人物がいきいきとしている。歴史小説としては、あまりに物語的ではあるんだけど、いやな感じはしない。
ただ、新聞連載からなのか、唐人お吉とハリスのくだりが長々続いたりと冗長な感は否めないかなぁ。
雪夫人絵図 [DVD]
まず内容紹介の補足から。封入されているのは、解説リーフレット24Pモノクロ、「雪婦人絵図」の周辺(田中眞澄)、スタッフ&キャストプロフィール(木全公彦)、「朝日は輝く」解題(佐相勉)。新聞PR映画「朝日は輝く」製作と公開についてのペラ。注目すべきは特典映像で、美術監督 水谷浩によるデザイン画(スライド)、劇場ポスター、挨拶状(小暮、上原、スライド)。そして何といっても「朝日は輝く」再編集版25分。詳細は読んで頂くしかないのだが、ゴスフィルモフォンドから里帰りした一本。伊奈精一との共同監督だが、主演した中野英治によると、主導権は溝口にあったらしく「映画読本溝口健二」(フィルムアート社)にも監督作品として載っている。フイルム上映未見のため比較できないが、画像は経年を考慮しても充分。戦前の大坂の街並みが鮮明だ。本編のデジタルニューマスターも、これならまず良しと評したい。ソフト会社を横断してのプレゼント(ポスター)もある。が、他社(東宝、角川、松竹)の広告内容を見る限り、没後50年ソフト化企画の中で、この「雪婦人絵図」が抜きん出ている。擦れっ枯らしの溝口映画ファンの方、これ逃すと確実に後悔します。 紀伊国屋書店は新東宝の作品を今後もリリースしていくらしい。封入されたリーフレットには「たそがれ酒場」「小原庄助さん」「下郎の首」「細雪」がアップされています。五所作品が無いのが寂しいですが、新東宝の五所は「煙突」だけではありません。新東宝時代の五所作品を是非ともリリースして頂きたい。
花の生涯〈上〉 (祥伝社文庫)
幕末の大老井伊直弼が,味噌っかすのような境遇から一躍大藩の藩主を継ぎ,
大老の重責を負ったまま桜田門に倒れるまでを小説化したもの
私はこれまで,主人公井伊直弼については,ただ傍若無人のワンマンであるかのような印象を持っていたのですが,
なるほどこういう状況ではあのようなやり方も仕方なかったのかな,
むしろそれが必要なことだとよく見ぬいていたのかもしれない,
などと,ややイメージを改めました。
前半のストーリーは,男女関係が前面に出されたやわやわしたもので,
森鴎外の歴史小説のようなドライなのどごしを期待していると肩透かしを食います。
しかし,それが作者自身のねらい通りなのか,読みやすく,そして気軽に楽しめる小説だと思います。