人間の愛や苦悩は、どんなかたちであれ、「生きる」証。それぞれの苦しみを繊細な描写で綴り、臨場感を持って感動出来た。 結末の物悲しさは、余韻と共に柔らかい空気に包まれて、私に「前」を向かせてくれた。 この著書を読んで、ますますこの作家が好きになった。彼の人生観についてもっと知りたい。彼の著書を読んで常に感じることは、「小説」という本には恋愛・友情・仕事・お金・人生などの「枠」があってはいけないものなんだ、ということ。この作家の著書から、最近わたしが忘れかけていた読書の醍醐味を再び味わうことが出来たのです。
著者は長編が上手だと思う。「一瞬の光」「すぐそばの彼方」と政治家や一流企業のサラリーマンなどを主人公にさせて、その職業のリアルな実情を描写してくれる。今回はフードライタ−の日常が描かれ、それはテレビ「情熱大陸」をみているようにそれぞれの職業の際立つ場面を切り取っていて面白い。加えて、それぞれの場で登場人物たちが不器用なくらい真剣に「生きる」ことについて考え、議論するのに読み応えがある。今回も、美帆という過去を背負った女性と、元ヤクザの優司というキャラクターの子ども時代から30代までの話となっており、その人物造形はとても魅力的で、深い人間描写を感じる。3時間くらいかかったが一気に読み終えて、満足度の高い読後感だった。
善悪や法、愛など、普段なんとなく分かったつもりになっている概念について 「本当にそうなのか」を問う作者のスタンスには大いに共感を覚えます。 結論が欲しいのではなく、思索過程を知りたい人向けの本かもしれません。
各論や結論への賛否は人それぞれだと思いますが 行間に見えたのはこの世への報われぬ恋のごとき思いでした。 このような受け取り方は、作者にとっては不本意かもしれませんが。
自分の人生は、借り物の哲学や宗教観で済ませるのではなく 自分自身ですこしずつ考えていこうと改めて思わせられました。
内容紹介文に、
ある国民的画家の数奇な生涯を描いたエンターテインメント。
期待した展開が何度も何度も裏切られ、物語のラストはとんでもないところに着地する。
昭和史の裏面に挑む怒涛の長編書下ろし。
とある。
たしかに中盤までは良い意味で裏切られる展開なうえ、
実在する人物まで登場させ、主人公と絡ませることで、どんどん物語に引き込んでくる。
※実在人物は容易にわかります。
だが後半はどうでしょう。
激しかった展開は影をひそめ、最後は落ち着くところに落ち着いたと感じました。
戦争の悲劇とか差別問題とかの多岐にわたる問題が物語の奥に潜んでいますが、
それらがうまく乗り切らなかったと思います。
ただ、中盤まではホントに面白かったので★4つでお願いします。
直木賞を受賞した、という安易な理由で読みました。作者にも作品にも最初から先入観がなく、また、ここが重要ですが、私が女性読者であるためか、表題の「ほかならぬ人へ」の作品の良さがそこまで理解できませんでした。 名家に生まれた落ちこぼれである主人公の男性のイメージは、線が細く優柔不断で、そのくせ男性のプライドをこっそりと秘めている人。その男性が、周りに現れるそれぞれの魅力を持った女性たちのあいだで揺れ動く。 かなり男性目線の物語運びだと思います。男性の感傷がこんなものだとは言い切れないし、私の勝手な偏見ですが…。複数の女性から好かれ、選ぶ側にまわる男性の設定は、ゲームでも、男性用の小説でも、よくあるものだと思います。 筆運びが繊細なので上質な物語になっているのですが、筋は、「育ちがよろしくなく、幼稚な美人か、仕事も料理もできて、スタイルも抜群、でもブサイク、さて、どちらの女性をとる?」と巷でよく交わされる究極のニ拓を要は物語にしているだけのようにも思います。女性を理想化し、やさしいものに昇華しすぎているようにも、感じました。 女性側からこのほかならぬ人への世界を見てみたいものです。
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