► WTF Is... - Silas ? SILAS モバイル

► WTF Is... - Silas ?

サイラス・マーナー (岩波文庫)

信心が篤く心根の優しいサイラス・マーナーの青年期から壮年期までの変遷を、彼を取り巻く人々や出来事と共に描いた、ジョージ・エリオット42歳の作品です（1861年発表）。
一人の織工サイラス・マーナーが、在所で親友と婚約者の裏切りに遭い落胆失望し、信仰を失ってイングランド中央平原の一村ラヴィロウに流れ着きます。失意の彼は紡績で貯まる金だけが楽しみの空虚な日々を送っていましたが、苦心惨憺して貯めた金を盗みに遭い、更なる失望に落とされます。しかしある冬の日、雪の道端に母を喪った赤子がサイラスの許に迷い込んできた時、彼の心に愛情の火が再び灯り、喜びを見出し、失っていた愛情と信仰を取り戻すに至ります。
知性に支えられた描写力を以て19世紀前半の英国の小村の人々、風俗、信仰などを豊かに描き出した佳作ですが、現代に生きる私達を既知に対して目覚めさせてくれはするものの、新たな経験に導いてくれるものではありません。
だからといって、そのことがこの作品を軽んずる理由にはなりません。この作品が取り上げている主題、主題を語る構成の的確、構成を成す文章の巧芸には、現代においても瞠目させられるところが多くあります。人物の心情の精緻な描写、人物の境遇や心情に関連させた事物の描写、信仰を等閑にし良心に欠け、知性も教養もない人々への強烈な風刺、一方での人物達への温々とした視線。エリオットはこういった点において傑出した才能を示しており、愛情や善への信仰によってこそ生は生きるに値するという主題を語っていきます。そして、彼女の女性的な（この表現は賛辞として捉えられるべきでしょう）感性、理性、知性、良心、寛容といったものが、数多の物語とこの作品の間に一線を画しています。そして、それは英国の才能豊かな女性作家に綿々と受け継がれているもので、エリオットもまたジェーン・オースティン、ブロンテ姉妹らの列に名を連ねているのです。