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木村拓 フットボールサミット第7回 サッカーと帰化とアイデンティティ 「国」を選んだフットボーラ―

またしても興味深いテーマ。日本代表の歴史上も日本に帰化し、日本サッカーに貢献した選手は結構いるし、世界を見渡してみると、数多くの帰化選手や移民がらみの選手が活躍している。「国」そして「アイデンティティ」を考えるのに、サッカーほど格好の材料はないのかもしれない。本書で一番印象に残ったのは「在日」フットボーラーの李忠成についての記事。生まれ育った日本では在日バッシングにあう一方、U-20韓国代表の合宿に参加した李忠成は、同じ合宿に参加した韓国代表選手からも差別発言を受けるなど冷ややかな対応をされてしまう。では彼はどちらの「国」にアイデンティティを求めればよいのか。彼の答えは以下の発言に表れている。―ルーツは韓国であり、生まれ育ったのは日本。祖国と母国が同じ意味を持つように、僕にとって韓国も日本は同じくらいの重みがあります。君のアイデンティティはどこ? と問われると、日本にもあるし、韓国にもあるし、さらに言うと在日にもあります。それが僕、李忠成という人間なんです。(pp.49)―一つの「国」だけをアイデンティティのよりどころにすべきという考えがあるとすれば、私(=評者)にはそれは受け入れられない。一番の理由は普遍性がないからだ。「普遍性」というと小難しく聞こえるかもしれないが、平たく言うと、世界中に、その原則、つまり「アイデンティティ=一つの国」には従えない人がたくさんいるからだ。改めて言うまでもないことかもしれないが、「国」とは人為的に定められた境界線でしかない。もちろん、その境界線が強力な力をもつことも確かだし、人為的であろうがなんだろうが、それぞれの「国」を取り巻くルールを守らないと社会的にやっていけないことも確かだ。しかし、アイデンティティのよりどころがその境界にぴったりと合っている必要はない。李が選んだ帰化という道。これには日本人からも、韓国人からも、そして在日コリアンたちからも誹謗中傷をうけたという。それらををすべて引き受けたうえで、自分の道、そして自分に続く後輩在日コリアンの進む道を切り開いていく李忠成の生き方は、まぎれもなく普遍的な強さを持った生き方だと私は思う。 フットボールサミット第7回 サッカーと帰化とアイデンティティ 「国」を選んだフットボーラ― 関連情報



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