Moon Germs
ジョー・ファレル1972年の代表作。メンバーが強力。ハンコック、ディジョネット、そしてリターントゥーフォーエバーに参加したばかり21歳のスタンクラークのベース。この組み合わせはこのアルバムだけでしか聞けない。ファレルは全曲ソプラノで、ハンコックは全編エレピ(ローズ)で演奏。(1)はカッコイイテーマのE♭mブルース。ジョーファレル&ハンコックのアウトフレーズそして絡みまくるバッキングが強力。(2)は8ビートのテーマで始まりアドリブはAmGm8小節ずつアップテンポの4ビート、途中からAmのトーナルセンター一発になりフリーフォームっぽく変化していくのが何ともこの時代らしい演奏。(3)はチックコリア作、美しい3拍子のテーマからサンバに変化する、ハンコックがコリア風バッキングをするのが微笑ましい。(4)はスタンクラークの曲。後年のスクールデイズを予感させるような作品。
全体を通して如何にも一発録りのノリを重要視したアルバム。聞き所はやはりリズム隊、今はもうおじさんになってしまったスタンクラークの当時の若武者ぶりが何とも気持ちよい。
銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
ニューギニア人からの「どうしてあなたたち白人は、世界の富と権力の大部分を握ることが出来たのか?」という素朴な問いかけで本書ははじまる。人類すべてが狩猟採集で暮らしていた13000年前の最終氷期の終わりを起点にして、人間社会の生業、技術、疫病、政治構造等がどのように変遷して白人が主導権を握るに至ったのかが謎解きの面白さに満ちた平易な文章で綴られていく。タイトルは、白人が他の大陸を植民地化できた直接的要因を凝縮したものだが、本書の表紙にはこれらがもっとも劇的に作用した歴史的事件として、スペインの征服者ピサロがインカ皇帝アタワルパを捕らえた場面が描かれている。
著者はニューギニアで、日ごろ文明に頼り切って暮らしている現代人が、近代的インフラのない土地で暮らすには、現地人の協力なしにはやっていけないと痛感したという。そこから、現在もしばしば語られる、近代化できる・できないの違いは人種・民族ごとの生物学的な差異に基づくという俗説を完全に否定する。また、マオリ族による、同じポリネシア人のモリオリ族虐殺事件などをあげて、ヨーロッパの白人だけが特に他の人種・民族に残虐だったという俗説も否定する。
先の問いかけに対して著者は、ユーラシア大陸の白人が他の大陸を植民地化できたのは、人種間の生物学的差異からではなく、地理的・生態的偶然−大陸の広さの違い、東西に長いか南北に長いかの違い、栽培化や家畜化可能な野生動植物の分布状況の違い等−からだったと答える。大陸の広がる方向に着目するところは、まさに自然科学者らしいユニークな発想だ。本書は、個体より集団の行動に注目する動物生態学の視点が随所に感じられるなど、歴史を自然科学として読みたい人にお勧めします。
Guns, Germs, And Steel: The Fates of Human Societies [New Edition]
歴史の専門家でもない一般読者である人のレビューとして読んでください。とても評判がよい本で1997年に出版されたあと,2003年と2005年に少し加筆され現在の版に至っています。Jared氏は人間の社会の発達を,生物学や考古学や人類学など広範囲の分野の研究成果を縦横無尽に駆け巡りながら,その根本にあると思われるメカニズムを,一言で言えば人にとって有益な動植物の条件が整った環境にまとめていきます。なぜ,ある社会は別の社会との接触で滅びていったのか,Jared氏はその原因を人の遺伝的な優劣に還元するということは決してしません。人類学のフィールドでの調査経験の豊富な氏であるからこそ,偏見に満ちた見方はせず,フェアで科学的に分析しています。もちろん,歴史上には突然変異的に強大な力を持ち多くの人の命を含めた運命を左右した人はたくさんいますが,そういった人たちの存在を認めつつも恵まれた環境によって歴史の大きな動きが作られてきたことを具体的に語ります。個人的に興味深かったのは,巨大な統一支配国家よりも小さく分かれた国家群の方が発展が早かった例(中国対ヨーロッパ)の説明が,IBM対マイクロソフトの例と最後に結びついたところです。組織として指揮系統が強固に統一されたものよりも,組織の中である程度の自由を生かして競い合う方が発展する可能性が高くなる示唆はとても参考になりました。
原書で読まれる方への助言を一つ。英文自体は文法的にはとても平易で明快です。しかし,動物や植物の名前がたくさん出てきます。オセアニアにかつてたくさんいて滅びていった有袋類から人が主食とするのに適した穀類まで英語を母語とする人でも知っているのかと思える語もたくさん出てきますし,日本人がなかなか学習しないものの生活では当然知っているはずの語まで私は電子辞書を調べまくりました。半年かけて読みましたので,ハードカバーを買ってよかったと思います。ソフトカバーだとぼろぼろになっていたことでしょう。たいした差額ではありませんので,語彙に不安がある方はハードカバー版をお勧めします。
文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
下巻の第12章では、文字の発明発展を考察する。文字は単純で限定的な使用から借用やヒント模倣などを経ながら伝播して形成されてきた。 紀元前1700年のものとされるファイストスの円盤はクレタ島で発掘され、印刷技術を推測されるが、今の印刷技術はその約2000年後の中国からである。
社会や集団の地理上の役割と技術の自己触媒的な発達において人口の多い地域でもっとも発達する。
このように、社会や集団によって文字や技術の受容が異なる事実からそれらの発展や衰退を考察している。
第16章では言語による人間集団の拡散を考察している。食糧生産や優位な技術を持った集団が殖民・拡散していき、もともとの小集団の地域を占拠同化していくプロセスを検証している。
部族社会から国家へと集権的な社会を形成すると他の首長社会を戦争等により呑み込んでいく。1492年の新世界発見とその後の旧世界による支配が示すように、食糧生産や技術を発展させた社会は常に勝者となっている。
金属器や文字システムや複雑な社会システム発達させ、食料生産を行い、労働の分化が進んでおり多くの人口を擁している集団が、勝ち残っていき、逆に狩猟採集民や地理的に孤立した集団では技術の後退や放棄が起こっている。
アメリカ原住民やアステカ・インカ帝国がなぜヨーロッパを発見して植民地化できなかったか。当時最強の技術を誇る中国はなぜアフリカ・中近東まで船で訪れていながらヨーロッパまでこなかったのか。
著者はその答えを大陸の大きさ、地理的条件、人口の密度などから解き明かしていく。本著は医学部教授である著者が、人間の歴史や技術史という観点ではなく13000年前からの人類史としてまとめている。
各章ごとに考察をまとめているためか、翻訳本のためか、フレーズの重複を感じる向きもあるが、社会科学の好著である。
Guns, Germs and Steel: A Short History of Everybody for the Last 13,000 Years
人類の発展は地理の産物である。なかでも、主食になるような植物の植生と家畜になるような動物の分布が最初の鍵であり、その結果としてcommunityとして栄えることができる人々が他の地域を圧迫し、取って代わっていく。
そのような大掴みな結論を導くために、実に細やかな人類史の実証的論考がなされている。
これは普段の読書では味わえない醍醐味であった。僕はこの本と出合い、壮大な人類の歴史に思いを致す機会が得られたことを幸せに感じる。
この本を読んでいると色んなことに疑問が湧く。「日本人」はどこからきたのか、縄文時代の日本人、弥生時代の日本人、現代の日本人、どれも同じ「日本人」なのか、僕らは誰なのか、「日本語」はどこから来て、どのように発生したのか、そうした疑問を単なる「日本人論」としてではなく、世界人類史の中でどう位置づけるのか、色々と想像が掻き立てられる。