グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
シリーズ物の第1巻です。
第2巻は、ラギッド・ガール 廃園の天使 2
全3巻の予定ですが、3巻はまだ出版されていません。
全三巻予定ですが、本書は一巻で完結しています。
本書で語られなかった謎は多く、未回収の伏線もいっぱいありますが、
メインストーリーは一段落していて本書だけでも満足感は得られました。
登場人物は、人間と見分けがつかないほどの知性と人間性を持ち
限りなく人間に近い高度AI。
この高度なAIを、現実との違いに意味がない程リアルな仮想空間に居住させ、
仮想空間上に町が出来ています。
仮想空間にリアルな町を作って、そこで人間が行っていたことは、
ダークな欲望の追及でした。高度な科学技術を駆使できるようになっても、
人間は宿業から逃れられないようです。
科学技術を明るい未来につなげるのではなく、
ダークな世界の創生に使ったという設定は衝撃でした。
人間以上に人間的なAIは、キャラ設定も宿業のように業の深い設定です。
したがって、AIたちの営みは、人間の業の深さを浮き彫りにします。
宿業を筆にしているので、本作には、グロテスクな描写もあります。
虐殺や陵辱などもむき出しのまま扱っています。
そういうのが嫌いな人は要注意です。
なお、最先端SFではありません。
作者は「構想からだいぶ時間がたっているのでSFとしての新鮮さは無い」
とあとがきで書いています。
本作の執筆は2001年ごろで10年以上前。「中途半端な古さではないので、
かえって古臭さを感じないかもしれない」とも作者は言っています。
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
冒頭の一編「デュオ」が凄い。やけに描写のクオリティは高い上に、展開も落とし所も劇的。異様な読後感がしばらく消えないのだからこれは傑作なんだろう。
音楽SF?なのだとか。確かに双子のピアニストにまつわる話ではあるけれど。最近のSFの潮流も分からず「完璧な小説」という触れ込みだけで読んでしまったのが良かったのかどうなのか、グロテスクで確かに完璧。こんなの読んだ事無い。
他の作品の水準の高さも比類ない。間違いなく天才ですね。
その後(更に)傑作との「グラン・ヴァカンス」も危うくて。このネガな魅力には昔イタリアンロックに嵌った感を思い出した。手を出さない方がよかったかなぁ。
ラギッド・ガール 廃園の天使 2 (ハヤカワ文庫 JA ト 5-3) (ハヤカワ文庫JA)
「ラギッド・ガール」は「グラン・ヴァカンス」を補完する中編集。3部作中2作目にあたります。
仮想世界誕生秘話から現実世界との断絶原因、そして謎の敵の誕生についてと、「グラン・ヴァカンス」で語られなかった謎が5つの中篇になっています。ここでも複線が解かれる快感、驚きが満ちています。現実世界を舞台にした物語が含まれているため、グラン・ヴァカンスにあった幻想的繊細さでは無く、リアルな空気感、タイトルの通りラギッドな読後感があります。
両作品とも、登場人物が虐殺され陵辱されるシーンは、執拗なまでにグロいのですが、それでも読み進められたのは内心登場人物が人間では無い=AIという仮想的な存在という意識が頭にあったからかも知れません。不思議なもんですね。
第3部がいつ刊行されるのかわかりませんが、残っている謎(天使とか、ジュールのその後とか)が明らかになるのか、楽しみでたまりません。待ち遠しいです。