目をみはる伊藤若冲の『動植綵絵』 (アートセレクション)
昔テレビで伊藤若冲の特集を見て好きになったにわかファンなので、若冲の美術史における位置づけや周辺作品には詳しくない。それでもずっと作品が記憶に残っているのは、彼の作品の中にある何かが強く見る者の心に訴えかけているに違いない。
最初は、それがリアリズムにあるのかと思っていた。彼の描く鶏に使われている原色にあるのかと思っていた。
しかし、この作品集の絵と解説(この解説が良かった)を見て、若冲の作品に魅かれる理由が自分なりに理解できた。
最大のヒントは、構図が非現実的なことだ。単なる写生画とは根本的に違っている。
非現実な構図の中にリアリティーのある動植物が描かれているので、より一層幻想的なイメージが強くなっている。
また、リアリティーを持って我々に迫ってくる動植物でさえも、実物を見ないで描いたものもあるようだ。
自分がリアリズムと錯覚していただけで、実は伊藤若冲の心の世界を見せられていたわけである。
本書においては、絵そのものを紹介するとともに、絵から動植物だけを抜き出してアップにしたものも何点か掲載しているので、今述べたような点を強く意識することができる。
B5版程度の大きさなので、通勤時にも眺められるかと思っていたが、混雑していてなかなか難しい。そこで、作品集の中から特に気に入った部分をスキャンして、携帯の待ち受け画面に使用している。ちなみに最も気に入っているのは、「老松鸚鵡図」のオウムちゃんのアップである。
江戸絵画入門―驚くべき奇才たちの時代 (別冊太陽 日本のこころ 150)
狩野派、琳派、浮世絵等々、「日本絵画のゴールデン・エイジ」とされる江戸時代の絵画を概観することができる格好の入門書です。
1点1点の作品のサイズも大きく、人物や作品自体の解説もわかりやすいので、門外漢の私にとってはとても助かりました。
当たり前ですが、きっちり江戸時代の線が引かれているので、それ以前やそれ以後(桃山や明治)の作品は一切入っておりません。その点はご注意を。
一口に江戸時代と言っても長いので、色んな作風の画家がおり、必ず一人は好きな作風の見つかるのではないでしょうか。
『江戸絵画入門』というタイトルに、何ら偽りはありません。
若冲の衝撃 (和樂ムック)
若冲のみならず江戸絵画有数のコレクターのジョー・D・プライスさんの生き様を紹介しながら、若冲を始め江戸絵画の名品をこれでもかというぐらいに掲載したムックです。小学館と大日本印刷の美術印刷の冴えを見せてもらいました。戦前の日本画壇において低い評価しかされず忘れ去られていく運命にさえあった若冲を始め、蘆雪、蕭白、鈴木基一などの絵師の魅力を再発見したと言えるプライス氏がいるからこそ、幅広い作品への本来的な価値の評価につながったのでしょう。
近年富みに注目を浴びている伊藤若冲ですが、その絵画を論じる際にはいつも、若冲や江戸時代の絵画収集家としてプライス・コレクションが登場します。有名な『鳥獣花木図屏風』の六曲一双の独特の画風を現代人が評価するのは当然でしょう。これを原寸大で披露していました。プライス氏は自宅のお風呂にこの「鳥獣花木図屏風」をタイルにして張り巡らせています。東京国立博物館が当初評価できなかったこの作品を青い目のコレクターが評価したのはまさしく慧眼と言えるでしょう。審美眼の確かさと先見性に感服しました。
このあたりのエピソードは、学習院大学教授の小林忠氏と明治学院大学教授の山下裕二氏の対談で詳しく語られています。東京国立博物館の踊り場の片隅にあったものを小林氏が発見したという逸話は若冲愛好家にとっては有名な話です。「鳥獣花木図屏風」を仏画だとする2人の権威ある美術史家の話は参考になりました。
48ページから相国寺に寄進した30幅の「動植綵絵」が掲載してあります。この極彩色の細画には本当に脅かされます。華麗な色彩を駆使しており、写実的でありながら非現実的なモティーフがまた異能の画家の本領発揮と言えるでしょう。若冲の画風は一見して明画のようです。狩野派の画法を捨てて、濃彩の花鳥画を題材にした宋元画の模写に励んだと言われていますので、戦前の日本画壇や美術史家から冷遇されてきたのは理解できますが、これだけの特異な画風はほとんど類をみません。
兵庫県の香住にある大乗寺の障壁画をプライス氏が観賞している風景がカラーで掲載されています。円山応挙の最晩年の傑作『松に孔雀図』や長澤蘆雪の『群猿図』の前でプライス氏は自然光の中で作品と対面していました。この鑑賞態度から江戸時代絵画に対する愛情が一杯感じられます。
京都・聚光院の書院を飾る狩野永徳の手になる国宝「四季花鳥図襖」にもプライス氏は対面しています。梅の枝振りが豪快で、小鳥の繊細な描き分けは見事な国宝に対するプライス氏のコメントも貴重でしょう。ユニークな見解を披露される山下裕二氏も同席され、その話も挟み込まれていますので、若冲ファンにとっては垂涎のムックだと言えるでしょう。
巻末の折り込みとして、若冲の『葡萄図』の原寸ポスターが付いていました。本編だけでも十分な値打があるのに、このサービスによってより付加価値の高いムックになりました。
Colorful Realm: Japanese Bird-and-Flower Paintings by Ito Jakuchu
ワシントンのナショナル・ギャラリーで開催された伊藤若冲「動植綵絵」(Colorful Realm)の特別展(2012年3月〜4月)のExhibition Catalogである。
内容はすばらしいの一言に尽きる。絵はすばらしいし、印刷もすばらしい。まだ、読めていないが、解説も豊富である。
決して大判でないわけではないが、現物を見た後では、小さいと感じられるのはやむを得ないだろう。
たまたま、この特別展を現地で見たが、大盛況でカタログは売り切れだった。行かなくても買える上に、値段も決して高くなくお値打ちであると思う。
本書を子細に見ていくと、日本企業の支援も多々あるようだ。別に企業関係者ではないが、知っておいた方がよい情報と思ったので書いておく。
サポートあるいはスポンサーとして記述があるのは、トヨタ、日経、ダイキン、伊藤園、三菱商事、パナソニックの各社であった。
いろいろな支えにより実現したこの特別展により日米文化交流が進み、一層の相互理解に繋がればよいと思うにつけ、このような特別展がワシントンで好評のうちに開催されていたことを日本の誰もが知るようになればよいとも願うものである。