旧聞日本橋 (岩波文庫)
日本橋に生まれ育った筆者の思い出話。
生まれたのは明治12年だが、江戸時代の習慣がかなり残されている。
髪型は、頭の中心部は剃っていたようだ。
和服の生活で、髷を残したままの人も少なくなかったらしい。
鼠小僧を見たことがある人の話や、仕立屋銀次が出てきたりする。おまけに、父親は千葉周作の門人だったのだ。今も虚構の世界に生きている人たちが、著者にとっては身近な存在だったのだ。
文章は非常にうまい。子供の頃から草子類を読むのが大好きだった、ということだが、おそらく、文字だけでなく、芝居などからも表現法を学んでいるのではないだろうか。
なお、江戸言葉らしく「すくない」を「すけない」と書いている。
「北京」に「ペーピン」とルビが振ってある。「北平」といっていたのを反映しているのだろう。
新編 近代美人伝〈上〉 (岩波文庫)
ざっと最初のところを読んだが、これは伝法肌の希有な人物であることを直感した。言葉使いなどは市井の人という感じだが、人物評価観察などは鋭く選び抜いた文章力はある高みに達しているという印象だ。美人伝というが、美貌容姿ばかりのことでは当然ない。三上於菟吉を助けて日本初の女優となった「貞奴」、「蕗の匂いと、あの苦み」と評した「樋口一葉」、「平塚雷鳥」、尾崎紅葉の『金色夜叉』のモデルとなった「大橋須磨子」、同じ須磨子で女優の「松井須磨子」、後は全然知らなかった人物がずらっと並ぶ。美人なうえ数奇な境遇という人物ばかり・・・なようだ