五色沼黄緑館藍紫館多重殺人 (講談社ノベルス)
五色沼のほど近くに建てられた妖しげな二つの館。そのお披露目パーティーの招かれたいわくありげな四人の客。何やら奇妙な雰囲気の中、雪に閉じこめられた館の中で奇怪な殺人事件が続発し、居合せた名探偵がその謎を解き明かす。……という本格ミステリの装いをまとった「バカミス」です。
限定集団の中で次々と殺人事件が発生し、人数が減っていくのに従って、徐々に緊迫感が高まっていく、という長篇ミステリは多くあります。しかし本篇では、盛り上げるいとまもなく、あまりにも立て続けに事件が起こるので、まるで恐くありません。
4つの不可能殺人が発生し、それぞれにトリックがあるのですが、どれもこれも、児戯に等しいという慣用句がピッタリと当てはまるものばかりで、その期待に違わぬ大馬鹿ぶりに、小躍りするほど嬉しくなりました。
「普通の人はバカミスなんて読まないんだ。喜んでるのは一部の変態だけだ。おのずと読者を選ぶから」と登場人物の一人に語らせつつ、またしても、こんな作品を書き上げた作者は、日本一の変態作家なのだと思います。
これは、一般的な意味での小説としてではなく、文字で作られた工芸品として評価すべき作品です。いわば、蒔絵と螺鈿で全面を見事に装飾された美しい箱のようなもので、「なんだ、ゴミが少し入っているだけで、ほとんど空っぽじゃないか」などと文句を言う方が間違っているのです。
この作品は、将来、「一部の変態」たちの間で伝説となるでしょう。絶版になったら、きっとプレミアがつきます。そういう意味で、買っておいて損のない本だと思います。
下町の迷宮、昭和の幻 (実業之日本社文庫)
人生の転機や危機に瀕した人々が出会う怪異を描いた短中編です。
10個の話からなります。
直接、幽霊などを描いたものは少なく、状況、雰囲気が中心となっています。
そのためか、雰囲気に呑まれてしまいました。
一つ読んだら、次が読みたい・・・という感じの本でした。
死のにおいが、そこはかとなく、そして、濃く漂う、、そんな作品ばかりです。
いたるところに、風景からも登場人物からも死のにおいが、します。
きてました。
三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 (講談社ノベルス)
著者の最新作『五色沼』の方を先に読んだので、順序が逆の「既視感」があった。ただし、完成度はこの『三崎』が上かもしれない。いくつもの仕掛けがあり、その仕掛けとは関係しない多数の伏線もありで、退屈を感じさせないデキだ。バカミスはバカミスだが、著者自らが楽しんで細工を凝らしている気味もあって、軽快な読本となった。なんつっても、館に招かれる学生たちは、館がどのようなものであるかはすっかり分かっているわけで、それを「隠し通した」あたり、著者の優れた力量(!)というべきかもしれない。